「10年経っても」

承前*1

播磨谷拓巳*2「ネットに踊らされるテレビ「10年経ってもそのレベル」 BPO倫理検証委員長の嘆き」https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/kawabata-bpo


「フジテレビの2番組でネット情報を鵜呑みにしたミスが続いた」。つまり、


フジテレビ「ワイドナショー」(5月28日放送)。「宮崎駿さん引退宣言集」のコーナーで実際の発言ではないものを紹介*3
フジテレビ「ノンストップ!」(6月6日放送)。人気アイス「ガリガリ君」で存在しない「火星ヤシ」味を紹介
BPO放送倫理検証委員会の川端和治委員長は、9月8日付で、「委員長談話」を公表した;


「インターネット上の情報にたよった番組制作について」https://www.bpo.gr.jp/?p=9216&meta_key=2017


この「談話」の最後の方には、


放送倫理検証委員会は、その発足直後に公表した最初の見解で「番組は、もっとちゃんと作るべきだ」という委員の発言を、委員会の総意として記載している。この見解が出された10年後に、また同じ事をコメントしなければならないというのはまことに残念である。もっと制作現場の一人ひとりが、番組制作者としての誇りと矜恃をもって仕事をして欲しいと思う。
という一節がある。上掲の記事は、「談話」、特にこの一節を踏まえての川端和治氏へのインタヴュー。

フジテレビの事案は、番組制作者がTwitterユーザーが冗談で作った宮崎駿氏の偽物の「引退宣言集」や、実在しない「ガリガリ君火星ヤシ味」の画像を番組で本物として紹介したものだ。

ちゃんと調べさえすれば、偽物であることはわかるはずだった。川端委員長はこの事案について次のように話す。

「出どころや裏取りをしたか以前に、宮崎駿氏がこのような引退宣言を重ねることや、ガリガリ君にこのような味が本当に存在するのかと疑問に持たなかったのか。なぜネットに載っているからと信じてしまうのだろう」

そして、呆れた様子でこう語った。

「10年経ってもまだそのレベルなのかと」


談話にもある10年前という言葉。放送倫理検証委員会のきっかけとなった事案があった年のことだ。

2007年1月、フジテレビ系の大人気番組「発掘!あるある大事典2」(関西テレビ制作)で、特集「納豆を食べるとダイエットができる」が放送された*4

翌日には納豆が品薄になる社会現象を起こした。しかし、番組内のデータやコメントは捏造されたものだった。番組は打ち切り、関西テレビ社長は辞任に追い込まれた。

あれから10年。今度は捏造ではなく、ネットにあった情報を検証なしに信じ込むというメディアのプロとは思えないミスが起きた。

それが川端委員長の指摘する「10年経ってもまだそのレベル」の意味だ。

さて、「構造的問題」を巡ってのパッセージを切り取っておく;

予算削減のしわ寄せは制作会社にふりかかっている。若手を鍛え、次世代の担い手を鍛える場としての役割を失いつつある。

川端委員長は、委員長代行を務める映画監督の是枝裕和氏を例に出す。

「是枝さんは制作会社のADからスタートして、いまは世界的な大監督になっています。是枝さんの時代は下積みの仕事で苦労して技術を覚えていき、徐々に地位を獲得できました。しかし、いまはそのようなルートが見えない」

「制作会社が人を育てる余裕がなくなって、ADはADとして使い捨てる感覚になっている。広い世界で活躍できる希望を持っていれば、いまやっている仕事も志を持ってできる。それが現実は安い給料で使い捨てられる」

「実際、問題になった番組のヒアリングしてみても、自分が集めた情報がどう放送されているのか把握していない。そのような状況で志を持って自分にはなにができるのかを考え続けるのは難しいのではないか」

「もちろん自分は表現者として活躍していくのだと思って働いている人はいる。しかし、昔ほど制作現場で働くことが光り輝いた時代でないだろうと。そうでない人がどんどん増えているのではないかと危惧を感じます」