「回帰している」?

熊澤志保*1「日本人の死生観に変化 「霊魂信じる」増加中」https://dot.asahi.com/aera/2017080400060.html


微妙に違うような気がする。「増加」しているのは「霊魂」ではなく「あの世」を信じる人たち。
曰く、


「家は◯◯宗だけど、自分は特に宗教はない」。「無宗教」を自認しながら、盆が来れば墓に参り、正月には初詣に行く人は多い。統計数理研究所の「宗教調査」によると、調査を開始した1958年から現在まで、ほぼ一貫して宗教を信じる層は3割で、信じない層が7割程度いる。ところが「霊魂の存在」を信じる人は増えているという。

 この調査の「『あの世』を信じるか」という項目では、58年の調査では、「信じる」が20%、「信じてはいない」が59%を占めた。ところが2013年の調査では全体の40%が信じると回答、「信じてはいない」の33%を上回った。世代格差もある。20代では「信じる」が45%だが、70歳以上では31%に留まった。

Aさんの御教示によると、「統計数理研究所の「宗教調査」」というのは『日本人の国民性調査』*2の中の「宗教」関連の質問。「あなたは「あの世」というものを、信じていますか?」という質問は1958年の調査に登場しているが、その後ずっと使われずにいて、(前回の)2008年に復活している*3。ちなみに、「「あの世」というものを、信じて」いる人は低学歴の人よりも高学歴の人に多いが、これは多分低学歴の人の中には高齢者が多いことによるだろう。
さて、「あの世」の信憑性の増加傾向だが、記事では宗教学者の正木晃氏の、「現代人の宗教観」が日本古来のものへ「回帰している」というコメントを援用している。しかし、そうなのか。神道における「あの世」、すなわち黄泉の国というのは、現代の日本人が思い浮かべる「あの世」とは程遠い世界といえるだろう。端的な穢れの世界。イザナギが命からがら逃げだしてこなければならなかったような。また、「森羅万象に魂を見いだす思想」にしても、日本古来というよりは、平安時代以降に仏教(密教)の影響の下、修験道などによって構築されていったという説もある(末木文美士『日本宗教史』*4、多分)。私たちが想像する現世そっくりのパラレル・ワールドとしての「あの世」イメージには中国的な「あの世」観の影響があるように思う。また、前世・現世・来世を一貫して生きる「霊魂」のイメージは19世紀の英語圏で生起したスピリチュアリズムの影響を決定的に受けている筈。
日本宗教史 (岩波新書)

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また、

ある男性はいわゆる「無宗教」だったが、亡くなった妻の墓を近所の寺で建て、弔うつもりで寺の勉強会に出席。最後に思い切ってこう尋ねた。

「私の妻はいま、どこで何をしているのでしょうか」

 ところがその寺の僧侶は誰も答えてはくれなかった──。

 この背景について、正木さんはこう分析する。

「死後に霊魂の存在を明確に認めているのは、仏教では高野山真言宗日蓮宗だけといわれます。近代仏教学には、1930年前後に霊魂の存在を否定した東大の仏教学者の宇井伯寿らの影響が色濃く残る。ほかの宗派は曖昧で答えようがない、というのが実情でしょう」