「ご意向」

承前*1

橋本治*2「ガハハ VS. やぁね」『ちくま』556、pp.2-3


橋本氏も「ご意向」という敬語に反応している;


今更あきれようもない昨今の日本だけれど、官僚同士で回す文書の中に「総理のご意向」という言葉が当たり前のように登場するというそのことに、あきれるというかいささか驚いた。「総理の意向」じゃなくて「総理のご意向」なのかと思って。
江戸城じゃあるまいし、総理の「ご意向」ね。行政のトップに立つ人間に、実際の行政機関の中で働く人間が「ご意向」なんて言うかね? 「お上のご意向」じゃあるまいし、社内の人間が、同じ社内の上司に「ご意向」なんて言うのかね。「私一人でなんでも出来る。担当大臣が無能で説明能力が欠けていても、私が”通す”と思っている以上、どんな法案でも通す」で、特定秘密保護法や安保関連法案を成立させて、共謀罪法案まで成立させるとこまで来ちゃった人だと、やっぱり「ご意向」になっちゃうんでしょうかね。もう北朝鮮のことなんか笑えないなと思う。
「ミサイル開発なんかしてないから北朝鮮じゃない」なんて言ったって、「ご意向」の方が「国家戦略としてのミサイル開発特区を作る」と言えば、簡単に出来ちゃうかもしれないしね。少しはましな頭を持つ人間をみんな粛清しちゃって、ただ笑って手を叩いているだけの勲章付けたジーさん連中を従えてる金正恩を見ると、「彼が倒れた後の北朝鮮はどうにもならないくらいの右往左往状態になるだけだな」と思うけど、日本だって似たようなもんかもしれない――と思ってはいたが、日本にはまだ「バカに従うのは生理的に無理」というような人もいるんだなと思って、ちょっとだけほっとした。(p.2)