
- 作者: 村上光彦
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1986/05
- メディア: 単行本
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村上光彦「落ち葉散り敷く迷路を」(in 『鎌倉幻想行』*1、pp.29-39)
曰く、
幼いころの図形体験を振り返るなら、ぼくは迷路の楽しさを田河水泡さんの漫画によって教えらえれた。『のらくろ』にも迷路が活用されていた。迷路を描いた見開き二ページの大画面が、いまも記憶に鮮明にやきついている。それはこういう絵だ。猛犬連隊の全員が練兵場に網を張りめぐらして毛布を干すことになった。寝坊したのらくろが毛布をかついで出かけたころには、干し場はほとんど完全に毛布で埋まっていた。ただ一箇所、毛布をかける余地が残っていたのだが、そこに行きつくには毛布の垣根で構成された迷路をさまよわなくてはならなかった。そこでページの隅の説明文のなかで、画家自身が読者に呼びかけて、のらくろに道を教えてやってください、と訴えていた。(後略)(pp.33-34)
村上が例として挙げている田河水泡の作品は、
田河水泡さんの漫画においては、画面全体が意識的に迷路として構成されていないばあいでも、断片的な印象があとまで鮮明に脳裏に焼きついて、心のなかに組み込まれてしまうことが多い。つまり、漫画のひとこまひとこまの印象が、ぼくの無意識の暗室のなかで編集され、ぼくの夢想する迷路のあれやこれやの舞台装置になりかわってしまうのだ。だから、もしぼくがどこかの遊園地で迷路を設計するとしたら、その要所要所で田河水泡さんから借りた心像を利用せざるをえないだろう。(pp.34-35)
「目玉のチビちゃん」(『漫画の罐詰』)
「昭和忍術物語」(『漫画常設館』)
「真珠貝」「黄金の冠」「怪物の尻尾」(『凸凹黒兵衛』)
『蛸の八ちゃん』(pp.35-37)