「責任能力」論争など

承前*1

タリウム娘」裁判。
毎日新聞』の記事;


<元名大生公判>「弁護人を殺したい」勾留中、日記に記述

毎日新聞 2/17(金) 21:18配信


 名古屋市で高齢女性を殺害し、仙台市で高校の同級生ら2人に硫酸タリウムを飲ませたなどとされる元名古屋大学生の女(21)=事件当時16〜19歳=は17日、名古屋地裁(山田耕司裁判長)の裁判員裁判の公判で被告人質問に答え、人を殺したいという思いを発散させるため日記などを記していたノートに、弁護人を殺したいなどと書いたと供述した。

 弁護側の質問に元学生は、起訴後勾留中、弁護人に差し入れられたノートに「(拘置所の)職員を殺したい。弁護人でもいい」と書いたと明かした。「人を殺したいという思いが頭を占めてどうしようもなく、書いて発散させた」と説明した。

 16日の元学生の母親に対する証人尋問を踏まえ弁護側から「もしも母親が殺害されたらどう思うか」と聞かれると、元学生は「そうなのか、で終わってしまうような気がする」と述べた。「家族を失っても悲しむ気持ちは分からないか」と問われ「はい」と答えた。

 検察側の質問では、名古屋家裁の審判で最後に意見を求められた際、裁判長の首を絞めたくて「ネクタイをしてきてください」と発言したと明かした。

 被告人質問に先立ち、元学生の高校時代の友人男性が証人として出廷した。高校1年時に雑談中、犯罪の話から友人が「いつか犯罪をするのでは」と聞くと、元学生は「やるなら少年法で守られているうちにやりたい」と話したと証言した。

 友人は高校2年の12月、元学生に硫酸タリウムを飲まされたとされる同級生男性がタリウム中毒と診断されたことを担任教諭を通じ知ったという。元学生が薬品類に詳しかったことなどから「盛ったの、お前なんじゃないの」と冗談交じりに聞くと、強い口調で「そんなわけねえだろ」と反論されたと述べた。当時は元学生を強く疑わなかったとした。

 これらの証言をもとに検察側は被告人質問で、事件の際に少年法を意識していたかやタリウム事件の殺意の有無などを改めて尋ねたが、元学生は「覚えていない」などと答えた。【金寿英】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170217-00000107-mai-soci

ちょっと前に「タリウム娘」は「非人間的(反人間的)なモンスターなんかじゃな」くて「私たちは連続している」と思った。誰かを「殺したい」と思ったことのない人なんていないと思う。それも、ちょっとむかつくとか気に食わないということで。しかし、殆どの人は実際には殺人を犯さず、脳内で殺したつもりになって満足している。基督教的に言えば、既にこの時点で罪を犯しているのも知れないけど。いくら瞬間的に「殺したい」と思ったとはいっても、正直に書いたり発言したりするなよと思うけれど、そういうふうに思うノーマルの側に属する(私を含めた)一般人が「タリウム娘」よりも道徳的に高い立場に立っているわけではなく、ただ保身への配慮という能力を身につけているだけだ。これは「責任能力」についての議論ともリンクするのだろうけど、彼女は或る行為を脳内で具体的に思い浮かべても実際にはしない空想という心的活動をする能力があることは明記しておくべきだろう。

<元名大生公判>責任能力、どう判断…最大の争点

毎日新聞 2/19(日) 8:30配信


 名古屋市で高齢女性を殺害し、仙台市で高校の同級生ら2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたなどとされる元名古屋大学生の女(21)=事件当時16〜19歳=の裁判員裁判は、名古屋地裁で被告人質問が一通り終了した。20日から最大の争点である責任能力の審理に入るが、それを前に元学生の供述のポイントをまとめた。【山衛守剛、金寿英】

 ◇検察側「精神障害の影響は限定的」

 ◇弁護側「そう状態で抑止力働かず」

 検察側、弁護側とも元学生が人の死に強い関心を持ち、精神面で障害があったことは共通認識となっている。ただ検察側は事件に対する障害の影響は限定的で、完全な責任能力があったと主張する。

 弁護側は元学生には他者への共感性がなく興味の対象が極めて限られる精神発達上の障害があり、さらに双極性障害(そううつ病)を発症したため、そう状態の時は抑止力が全く働かなくなっていたとして、全事件で責任能力がなかったとして無罪を主張している。

 22、23日は精神鑑定をした医師3人の証人尋問が実施される。

 ◇女性殺害事件

 知人の森外茂子さん(当時77歳)殺害で、元学生は動機を「人が死ぬところが見たかった」と語った。森さんの様子を「実験結果として記録を残すため」写真に撮ったとした。

 自宅に招きやすく高齢で未来が少ないと考えて森さんを狙ったこと、事前に手おのなどを用意し、ティッシュを取るふりをして背後に回り殴ったと当時の状況を説明した。

 「(殺人は)少年のうちにやらなければと固定観念があった」と述べ、遺族感情は「考えたことがなかった」と語った。一方で「事件後にまずいことになったと思った」と振り返り、逮捕後に治療を始めてからは「人を殺す夢を見ると絶望感を覚える」と話した。

 検察側は供述から善悪の認識や計画性、強固な殺意があったなどとして、殺人が違法行為であると認識しながら意志を持って実行したと強調するとみられる。弁護側はそう状態の中で「純粋に人が死ぬ過程を観察したい」という衝動による思いつきの行動と主張する。治療効果を挙げて事件当時は障害の影響が大きかったことを主張する可能性もある。

 ◇タリウム事件

 元学生は中学時代の同級生女性への硫酸タリウム混入を「どうしても人にタリウムを投与したくなり、日曜で友人なら自然に呼び出せると思った」と説明した。高校の同級生男性は席が隣だったことなどから「タリウムを入れやすそうだと空想していた」と話した。

 被害者が飲んだ時や中毒症状が出たと知った時は「興奮した」「感動した」と述べた。一方で致死量に関する認識を口にし、タリウム混入について「自分がしたことは(警察に)捕まることと実感した」と振り返り、当時は混入がばれていないか気にしていた。

 事件の動機に関しては検察側、弁護側ともに「中毒症状の観察が目的」としている。検察側はタリウムを飲ませやすい相手を選んでいたことなどから計画性を指摘し、タリウム混入の危険性を認識していたとして、責任能力が認められると改めて主張する見通し。

 弁護側は抑止力が利かなくなっていて犯行もずさんと訴える。精神発達上の障害から中毒症状の観察に関心が集中し被害者が死ぬ可能性を考えられなかったと殺意も否定する。
(後略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170219-00000006-mai-soci

衝動的に射殺するとか刺殺するというのを除けば、「殺人」を行うには、行為の一連の流れを、空想による脳内での予行演習を通じて、手段と目的の複雑な連鎖に分解しなければならないということはいえるだろう。
タリウム娘」の「母親」の証言を伝える『河北新報』の記事;

タリウム事件>小6時 担任の給食にホウ酸


 名古屋市で知人の高齢女性を殺害し、仙台市で同級生2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたとして、殺人や殺人未遂などの罪に問われた元名古屋大女子学生(21)=仙台市出身、事件当時未成年=の裁判員裁判第13回公判が16日、名古屋地裁で開かれ、元名大生の母親(50)が生育歴などを証言した。母親は「小学6年の時、担任の給食にホウ酸を入れようとしたことがある」と明らかにした。
 母親によると、ホウ酸は理科の実験で配られた。一緒に集めた友達がホウ酸を紛失して未遂に終わったが、代わりにホチキスの針や消しゴムのかすを入れた。動機は「担任が気にくわないから」と話したという。
 元名大生が中学3年に上がる頃、母親は神戸市の連続児童殺傷事件の話を聞かせ、身を守るよう注意を促そうとした。元名大生は「自分と同年齢なのにすごい」と羨望(せんぼう)の的にし、母親は「正反対の受け止め方をされ、衝撃を受けた」と振り返った。以降、神戸の事件をインターネットで調べたり、関連書籍を購入したりするようになったという。
 高校入学後はおのやナイフなどの凶器を集め始めた。母親名義で薬品を注文し、自慢げに見せてきたこともあった。繰り返し注意しても「(凶器や薬品を)見ていると安心する」などと聞き入れなかったという。
 14年12月、仙台市に帰省した元名大生は「夢か現実か分からないが、人を殺したかもしれない」と告白。母親は、おのやナイフを持ち帰ってきたことを知っていたが「殺人犯は過酷な家庭環境で育った例が多い。経済的に支えられ、学力もあるうちの子は違う」と真に受けなかったという。
 母親は冒頭、「被害者や遺族に計り知れぬ苦しみを与え、親としておわびしたい」と涙声で謝罪。償いを尽くす意向を示した上で、娘への精神医療など必要なケアを求めた。
 母親は何度も元名大生を見詰め、元名大生はじっと前を見たままだった。

2017年02月17日金曜日
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201702/20170217_13012.html

硼酸の「ほ乳類にとっての急性毒性は食塩と同程度」であるという*2。それはさて措いて、2015年の事件発覚時に藤井誠二氏が既に指摘していることだが*3、彼女も酒鬼薔薇聖斗フォロワーのひとりだったということ、しかも「同年齢」だったということは再びマークしておくに値するだろう。