弁護士的ディスクール?

高畑裕太による強姦事件*1を巡って。

田房永子高畑淳子の会見」http://mudani.seesaa.net/article/441393175.html *2


批判的な見解。


記者たちの無粋で無意味で不気味な質問の数々によって、高畑淳子の「被害性」が強調されまくる。まるでマスコミが高畑淳子への同情を作り出して守っているかのように見えるほどだった。

 性犯罪という、個人間の問題、殺人という非日常的な事件よりももっと分かりにくい、日常にまぎれ混んでいる問題で、こういう会見がテレビで仰々しく流れてしまうこと自体が、被害者側への大きな攻撃だと思う。
 被害者は弁護士から「相手はちゃんと働いてる人なんだ」「酔っていただけなんだ」「このことが公になったら、加害者の人生は終わってしまう」とか言われる。
 まるで自分が被害を訴えることで今度は自分が加害者かのようなことにすり替えられてしまう。
 それで訴えを取り消したりすることが、世の中にはたくさんある。


結局この会見は、24時間テレビとか裕太が「仕事で」迷惑をかけた人たちへの謝罪会見でしかなかった。
 加害者の家族がどんな風に苦しむのかを映像でハッキリと見せつけられてしまって、これから先、性犯罪・性暴力の被害に遭った時に、遭った人が、この会見の映像や高畑淳子の様子を思い出して通報を躊躇ってしまうことになるのではないかとも思う。
また、「不安」解消の心理について;

そして、母親に容疑者のもともとの特徴や、性犯罪の兆候などを聞きたがったり、容疑者の性格の“異常性”をことさらに語ろうとする記事がバンバン出てくるのは、「私は加害者になったり加害者の親になったりすることはない」と思いたい、安心したいという心の現れだと思う。
 地震が起きて家が壊れてしまった人に「ここは地盤がゆるいからですよね?」「地震が来たら壊れるって思ったことはなかったんですか?」とか聞いてるのと同じで、聞いてる側の「うちは大丈夫だよね、地震来ないよね、きてもうちは壊れないよね」っていう不安を解消しているだけの無礼な質問だ。
 被害者の特徴を知りたがったりするのも、同じ心理だと思う。だからこの件は仕方なかったんだ、と溜飲を下げたい、納得したい、という心理。
 
 しかしそんなことで不安が解消されるわけがない。
 テレビでは子持ちのタレントたちが「自分の子どもが加害者になるなんて怖い」「防ぎようが無い」とただ“男の性欲”に怯えてる。
 男性タレントが「顔もいいし有名人なんだから、ちゃんと口説けば結構な確率でそういう関係になれたはずなのにどうして」と言っていた。これは震災の話題で「もっと太平洋の真ん中の海のほうで地震が起こればよかったのに」とか言ってるようなものだ。
 他の件だと、そんなアホな発言は出てこないのが普通だけど、性犯罪のことになると、みんな知らなすぎて「なんで」とか「こうすればよかったのに」とか延々とただ感情を口から出す、みたいなテレビショーになってしまう。 
 地震とかは、地球がどういう構造になっててどうして起こるのかっていうのを専門家が分析してる。
 性犯罪・性暴力だって専門家達が研究してるのに、なかなかそういう話にならない。性犯罪・性暴力は、自然災害以上に、どうにもならないもの、みたいなことになってる。

自然災害とか殺人事件とかだったら、「自分はそういう目に遭わない、という安心」や「事件は仕方なく起こったんだと思いたい」という心理(本音)はもっと隠され、ネットの隅でひそかに語られるけれど、性犯罪になると、そっちが表に丸出しになる。ニュースが出た当日から、そのとてつもなく下劣な話題が真っ先に一番表に出てくる。性犯罪が一体どういうことなのか、一般的に知られていないから、本音と建て前が真逆になっていることすら分からないという状態になっている。

さて、吃驚したのは、冒頭で語られている、田房さんが「ルノアール」で盗み聞ぎしたという痴漢被害者(女性)と弁護士(男性)との会話;

茶店ルノアール)に一人でいた時のこと。隣の席で60代前半くらいの弁護士の男性と、20歳くらいの女性が、痴漢の裁判について話していた。

 痴漢被害者の女性が具体的にされたことをしっかり説明した。強制わいせつだけではなく女性が駅員のところに連れて行くと目を離した隙に洗面台で手を洗って証拠を消し、バカにしたような態度を取ってきたということを詳細に話していて、それが余りにも酷いので、聞こえてしまった私も怒りで震え出すほどだった。「訴えたい」と言っているのに弁護士は「10万での示談」を薦めまくっていた。そしてこう続ける。
「向こうの男性は、その時はお酒が入ってただけで、普段は真面目ないい人だよ」
「例え慰謝料が50万とれても30万は裁判費用で消えるから裁判なんてあなたにとってなんの価値もないよ」
「(それでも訴えてこらしめたいという被害者に対し)ちゃんとした会社に勤めている人だから、留置場に1日入っただけでも相当反省してるよ」
「殺人とか覚醒剤みたいに証拠がわかりにくいから慰謝料はとりづらい(だから10万円で我慢したほうが賢明)」
「有名な企業の人だから、あなたが訴えるとニュースになって新聞に顔写真とか名前が載っちゃうんだよ」
「訴えられたら向こうの人生狂っちゃう」

 もっといろいろ「ええ?!」ってことを、ずっと女性は弁護士から言い続けられていた。
 弁護士的には、そう言うのが仕事なのかもしれないけど、つまり法律自体にその根底に「触られたぐらいなんだよ」と思ってる男たちの心理がベターーーーーと張り付いている。口では言わないけど、全身から出てる。
 一番腹が立ったのは「裁判でまた2度も3度もつらい体験を話さなきゃいけないんだよ? いやでしょ?」というもの。「たいしたことねえだろ」って思ってるのを全身から出しておいて、都合が悪いところだけ「つらいでしょ?」と脅す。
 なんとなくは聞いてた。痴漢被害を訴えるのがとても大変だっていう話は。だけど本当にこんなことを面と向かって言われて“説得”されるんだ、と知って驚きすぎて息が苦しくなった。

この爺、痴漢男性の代理人じゃなくて、被害者の代理人ですよね。この弁護士の世界観によると、人間(特に男性)には、狂うに値する「人生」のある人とない人がいるということになる。また、「ちゃんとした会社に勤めている人」は「痴漢」をしても(多分レイプをしても)訴えられない、「示談」で済ます特権があるわけか。