或る帰結(予期せざる?)

開発と健康―ジェンダーの視点から (有斐閣選書)

開発と健康―ジェンダーの視点から (有斐閣選書)

青山温子、原ひろ子、喜多悦子『開発と健康 ジェンダーの視点から』*1から。


南アフリカの東ケープ州のある地域では、水くみや薪拾いは女の子の仕事になっていた。いずれの場合も人気のないところに出かけなければならず、男たちはその場所を知っていた。したがって、水くみや薪拾いが強姦の現場となることが多かった。伝統的な農村社会では、結婚前に妊娠することは、女の子本人ばかりでなく、家族にとっても不名誉なことであるため、初潮を迎えると、母親が娘を診療所に連れて来て避妊注射を受けさせた。農村の診療所には、下校時、制服姿の女の子が列をなしていた。診療所は、友達同士の情報交換の場にもなっていた。
強姦しても妊娠させることがないため、逆に加害者側の罪悪感は希薄になってしまい、強姦はいっこうに減らなかった。また、女の子たちは、合意のうえの性行為でもコンドームを使うことはなかった。このようにして、女の子たちがHIVをはじめとした性感染症にかかる危険性は高くなった。この地域での、10歳代女子のHIV感染率は、同年齢層の出生率が低いのに比べて不釣合いに高かった。彼女たちにとって、妊娠はすぐに目に見えるので恐ろしいが、HIVは感染しても数年間は症状が現れることがないので、具体的な恐怖はあまりないようだった。(pp.130-131)