印度亜大陸を巡って幾つか

開発と健康―ジェンダーの視点から (有斐閣選書)

開発と健康―ジェンダーの視点から (有斐閣選書)

青山温子、原ひろ子、喜多悦子『開発と健康 ジェンダーの視点から』*1から少し抜き書き。


(前略)生まれた直後の死亡率は女の子も男の子も大差ないが、少し大きくなるとしだいに差が出てくる。インド北部やパキスタンの東・中・南部では、1歳以上5歳未満の女の子の死亡率は男の子の2倍も高いのだ。ところが、同じ南アジアでも、インド南部、パキスタン北西部、スリランカでは、死亡率に男女差がないかむしろ女の子のほうが低い*2。次に、子どもが熱を出した時なにも治療しないことがどれくらいあるかが調べられた。インド北部では、治療してもらえない女の子は男の子の1.5倍から1.8倍も多いのに、インド南部は、むしろ女の子のほうがよく治療してもらっていた。(pp.99-100)

(前略)生物学的に、女性のほうが寿命は長く、先進国では、一般に女性の平均余命が男性よりも6-7年長い。しかし、インドでは、平均余命の男女差がほとんどなく、女性を男性よりも生きのびにくくする、生物学的以外の要因があると考えられる。(p.100)

(前略)パキスタンでは、食物を、「熱い」ものと「冷たい」ものにわけて、体の状態にあわせて摂るべきと考えている。妊娠中の女性が肉や卵のような「熱い食物」をとると、流産などの害を及ぼす危険があると考え、「熱い食物」を避けるべきとしている。
このような、「熱い食物」「冷たい食物」の概念は、世界各地に見られる。この概念は物理的温度とはまったく関係がなく*3、それぞれの文化の中で分類されてきたものである。同じ食物が、ある社会では「熱い食物」とされ、別の社会では「冷たい食物」とされていることも少なくない。また、どんな時にどちらの食物をとるべきかということも文化によって異なっている。たとえば、パキスタンでは、妊娠中は「熱い食物」を避けるべきだとしているのに、中国では、妊娠中は体を冷やさないように「冷たい食物」を避けるべきだとしている。(pp.164-165)

*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160812/1470977386

*2:世界銀行の調査。

*3:「まったく関係がな」いとはいえないのでは?