承前*1
ずっと『ガーディアン』のサイトで英国のEU離脱国民投票の動向をチェックしていた。たしか開票率70%を超えた辺りで、「離脱」が52%、「残留」が48%になり、そのままひらきも縮まりもせずに最後まで行ってしまった。結局、「残留」派が多かったのはスコットランド、北アイルランド、倫敦で、「離脱」派が多かったのはウェールズと(倫敦以外の)イングランドだった。
『朝日新聞』の記事;
「離脱」の効果として、2014年に一旦は抑え込んだスコットランド独立の動き*2にまた火を点けてしまったということがある。
英国がEU離脱へ BBC「過半数上回る」、初の脱退例ロンドン=渡辺志帆
2016年6月24日14時16分
23日に投票が行われた欧州連合(EU)からの離脱を問う英国の国民投票で、英公共放送BBCは24日午前6時(日本時間午後2時)、独自集計の結果、離脱票が投票総数の過半数を上回ったと速報した。28カ国からなるEUから加盟国が脱退する初の例となる。拡大と深化を進めてきた欧州統合は大きな転換点を迎える。
離脱派の英国独立党(UKIP)のファラージ党首は24日午前4時、ロンドン市内の集会で「独立した英国の夜明けが来ようとしている」と述べ、事実上の「勝利宣言」をした。
投票は23日午後10時(同24日午前6時)に締め切られ、ただちに開票が始まった。英BBCによると、24日午前5時40分(同午後1時40分)時点で、382地区のうち364地区で開票が終了。離脱が1625万2257票(51・8%)、残留が1513万139票(48・2%)となっている。
全国的な集計結果は、24日午前(同午後)にも中部マンチェスター市庁舎で発表される見通し。選管によると、有権者数約4650万人で投票総数は3356万8184票、投票率は72・2%だった。昨年5月の総選挙の投票率66・1%を上回った。
開票の結果、労働党支持者が多く、残留派が多いと見られていた中部の工業都市ニューカッスルでは、残留が50・7%、離脱が49・3%と得票率が伯仲。日産自動車が工場を置く近郊のサンダーランドでも離脱が61%を占めるなど、各地で離脱派が予想以上に得票を伸ばした。
一方、残留派が優勢とみられていた地区では、投票率が伸び悩んだ。北部スコットランドの主要都市グラスゴーでは残留票が過半数を占めたが投票率は56%台と他地域に比べて低かった。残留派が優勢とされた中部マンチェスターも投票率は60%を下回った。
ロンドンを含む英南東部は22日夜から豪雨に見舞われた。投票日の23日も断続的な大雨で浸水の被害が発生したり、交通網が大きく乱れたりした。荒天が有権者の出足を鈍らせた可能性もある。
国民投票に向けたキャンペーンで、離脱派は移民問題に焦点を絞り、「EUにとどまる限り移民は減らせない」と主張。「主権を取り戻せ」と訴えた。またEUから出ることで、英議会の主導権を取り戻すべきだと説いた。
一方、キャメロン首相が率いる残留派は、経済のリスクを前面に掲げた。オバマ米大統領ら各国首脳も残留を呼びかけた。投票日1週間前の16日に残留支持だった女性下院議員の射殺事件が発生。残留派が巻き返したものの、離脱派の勢いが最後まで伸長した。
英国は今後、EU基本条約の規定に従い、2年をかけてEU側と離脱の協定を結ぶ交渉に入る。ただ加盟国の全会一致で交渉期間は延長できる。また英国は欧州の単一市場へのアクセスを失うため、改めてEU側と貿易協定の交渉を行うことになる。
今後は、残留を訴えたキャメロン首相の進退が焦点となる。残留派の多い北部スコットランドでは、EU離脱を嫌う住民の間で英国からの独立運動が再燃する可能性もある。(ロンドン=渡辺志帆)
http://www.asahi.com/articles/ASJ6R7WSFJ6RUHBI03W.html
「キャメロン首相の進退」だが、既に(責任を取っての)「退陣」を表明している;
スコットランド、EU残留希望し声明 独立へ議論再燃もロンドン=渡辺志帆
2016年6月24日15時35分
英国が23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことを受けて、英北部スコットランド自治政府の首席大臣を務めるスコットランド民族党(SNP)のニコラ・スタージョン党首は24日、「スコットランドの人々がEUの一部としての未来を望んでいることがはっきりした」との声明を出した。
スコットランドは投票した住民の過半数が「残留」を支持。英国からの独立は2014年9月の住民投票でいったん否決されたが、スタージョン氏はスコットランドの住民の意思に反して英国がEUを出ることになれば、独立を求めて住民投票の再実施を求める声が強まると示唆していた。(ロンドン=渡辺志帆)
http://www.asahi.com/articles/ASJ6S4VS8J6SUHBI01L.html
Heather Stewart, Rowena Mason and Rajeev Syal “David Cameron resigns after UK votes to leave European Union” http://www.theguardian.com/politics/2016/jun/24/david-cameron-resigns-after-uk-votes-to-leave-european-union
また、「離脱」を歓迎する欧州の極右;
Angelique Chrisafis “European far right hails Britain's Brexit vote” https://www.theguardian.com/world/2016/jun/24/european-far-right-hails-britains-brexit-vote-marine-le-pen
仏蘭西の国民戦線のマリーヌ・ル・ペン*3など。
ところで、今回の国民投票騒動で感じたことの一つは、英国的な二大政党制度の空洞化、或いはもっと極端なことを言えば政党という制度の権威の蒸発ということだ。右翼と左翼というか与党と野党というか、保守党も労働党も一応はEU残留支持だったわけだ。これはどちらも〈民意〉なるものを代表(represent)し得ていないということを意味する。勿論、UKIPという右翼政党*4の前面化ということはあるわけだけど。日本にも英国流の(政権交代可能な)二大政党制の定着のために奮闘してきた山口二郎氏(eg. 『イギリスの政治 日本の政治』*5)などはどのようなコメントを発するのだろうか。政党の権威喪失ということで思い出したのは蘇聯崩壊後の露西亜。蘇聯共産党の崩壊とともに露西亜に起こったことは政党という制度の権威の失墜だったわけだ。エリツィンは共産党を脱退して以降、生涯無所属を貫いた。勿論、これは露西亜や英国だけでなく、ダメージの強さに違いは当然あるものの、世界のどの国でも政治を蝕んでいる問題なのではないかと推測している。

- 作者: 山口二郎
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*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160617/1466131699 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160620/1466396613 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160621/1466517047
*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140923/1411443853 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140924/1411572709
*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130520/1368976560 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20130523/1369282829 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141017/1413512807 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20150209/1423495421
*4:http://www.ukip.org/ See eg. http://en.wikipedia.org/wiki/UK_Independence_Party http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E5%85%9A Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20140924/1411572709 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141116/1416104656 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20160507/1462627559
*5:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080814/1218687009 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120122/1327252811