生きるキューハチ

北林慎也*1「あの「PC-98」が高値で売られ続けていた その意外な使われ方」http://withnews.jp/article/f0160314001qq000000000000000W00b0901qq000013115A


若い人は「PC-98」を何と訓むのだろうか。
曰く、


さらに時代は下って、ウィンドウズPCの全盛期も過ぎて情報通信の主役がモバイル端末に移りつつある2016年。完全に使命を終えたかに思えたPC-98だが、ネット通販などでは根強いニーズに裏打ちされた高値取引が続く。オークションサイト大手「ヤフオク!」では、「PC-98」カテゴリーで1500件超の出品がある。動作を保証しないジャンク品でさえ数万円で売り出されている。

今もって愛用し続けているのは、一体どういった人たちなのか?

 PC-98シリーズを専門に扱う修理販売ショップ「PC-98のミシマ」(静岡県伊豆の国市)の店主・井口智晴さん(34)によると、工場での生産ライン管理や、部品を設計・製図するCAD(キャド)システムを動かすのに活躍しているという。


80年代後半-90年代前半のバブル経済期に設備投資された工場設備は、開発コストを抑えるため、当時の汎用機だったPC-98でシステムを組むケースが多かったという。その後、不況に見舞われるなどしてシステムを更新するタイミングを逸して当時のまま使い続けている工場こそが、今もPC-98が活躍する現場だ。

 そう聞くと、設備投資に費用をかけられず最新デバイスにもなじめないような町工場の高齢経営者を想像してしまう。しかし、意外にもロングセラー商品を作っているような大企業ほど、古い設備の更新に膨大な費用がかかるため、古いPCを使い続けるケースが多いという。

 ほとんどがウィンドウズ以前の「N88-BASIC」や「MS-DOS」といった当時のOSで動いている。ミシマの顧客には「自動車やインフラ、電車製造など、みんな知ってる有名な会社さんもいます」とのこと。

1995年にウィンドウズ95が出て、みんな浮かれていたけれど、そういう世間を尻目に、ビジネス・ユースでは98年頃までは、極端なところでは21世紀直前まで、黒い画面のMS-DOSの天下だったんじゃないか。というか、特にテクノロジーと関係ない事務所とかでは、部屋の片隅に98マシンが1台か2台あって、各人のデスクの上にあったのは東芝ルポとか富士通OASISといったワープロ専用機だったというのが寧ろ一般的だったのではないか。また、印刷業界とか医者の世界はマックの天下だったわけだけど。ウィンドウズ95を初期の段階で導入したところというのはネットワークに対する意識が高かったところで、社内LANの構築とセットになっていたんじゃないか。まあその場合でも、上司のところまで走っていって、今メイルを送信しましたと報告しなくちゃならなくて、これじゃ社内LANじゃなくて社内RUNだろうというところも少なくなかった筈だ。
さて、最後の98マシンが発売されたのは2000年6月だったというのを読んで、意外と長生きしたじゃんと思った。NECが98を捨てたのはさらに数年前だと思っていたのだ。
この記事には書いていないけれど、98にはNECのものだけじゃなくてエプソンが独自に出していた互換機があったのだ。というか、私が初めて使ったPCはそのエプソンの100MB大容量(笑)ハード・ディスクつきのノートだった。この機械にMS-DOSをインストールすることから私のPC人生が始まったのだった。
何故98が急速に廃れのたのか。記事には色々書いてあるけれど、要するに多勢に無勢だったということだと思う。Windows 95のリリースに乗じて、殆どの家電メーカーがPC市場に参入してきた。みんな数年で撤退してしまったが。どれもDOS/Vと呼ばれたIBM互換機だった。98はそれまでIBM互換機を作って来た東芝富士通だけでなく、これらの新規参入の家電メーカーにも包囲されてしまった。エプソンも98を捨て、さらにはPCからも撤退して、プリンターに特化してしまった。何となく、ヴィデオ・テープのフォーマットを巡ってVHSと争いながらソニー1社になって敗退したベータ*2と似たような状況だったのかも知れないと思ったりもするのだが、アップルもNEC以上に孤立をしたにも拘らずこちらの方は生き残った。その違いはどこにあるのか。98にはユーザーはいても信者がいなかったということはいえるか。

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141002/1412179923

*2:VHSとベータの抗争については、例えば林敏彦「ネットワークの生態」(in 林敏彦、大村英昭編『文明としてのネットワーク』)を参照されたい。Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080817/1218939934

文明としてのネットワーク

文明としてのネットワーク

See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20141103/1414943265