「母乳神話」とそれ以前 - Living, Loving, Thinking, Again

『RBB TODAY』の記事；

北斗晶、“母乳神話”に悩む母親たちにエール「出ないもんは出ないんだよ」
RBB TODAY 7月9日(木)16時40分配信

　元プロレスラーでタレントの北斗晶が9日、ブログを更新。子供を粉ミルクではなく母乳で育てようとするあまり疲弊していく母親たちに温かなメッセージをつづった*1。

　この頃ネット上で母乳の偽物が販売されていると発覚して問題になっている。多くのメディアが報じるところによると、偽母乳ビジネスの裏側には、赤ん坊を抱える母親たちが、粉ミルクではなく母乳で子供を育てるべきという情報に振り回されてしまっている状況があるようだ。
　北斗は、そういった母乳をめぐる母親の現状について取り上げたニュースのひとつを引用して、「赤ちゃんは母乳で育てた方がいいのは分かってる　初乳には特に沢山の栄養や赤ちゃんを雑菌から守る効果もあったりと…　また、母親にとっても母性本能を更に強くさせ、乳首を吸わせる事で子宮の戻りも良くなると、母親学級でも散々習ったし。母親だって、散々そんな事を言われたら…なんとしてでも母乳で育てたいと思うわけよ」と母乳にこだわる母親たちの気持ちをおもんぱかる。そのうえで、母乳神話を押し付ける人々を「母乳がいいのは分かってるだけど…出ないもんは出ないんだよ」と一喝。薬を飲んでいる影響で子供に母乳を与えられない母親だっていると続け、「母乳、母乳と騒ぐな」「あたしには、子を産んだお母さんたちが追い詰められてる結果にしか思えないよ!!」と自身の考えを示した。
　実は北斗自身も、息子が生まれてまもない時期に母乳が完全に止まってしまったのだという。「なんか、あの時の自分は追い詰められてた気がするんだよ」と振り返った。だが、ほとんど粉ミルクで育てた息子たちは大きく成長した。北斗は息子ふたりとの写真をアップして、「見たか…あたしより、1人は遥かにデカくなったわ!!!」と語る。「母乳が出なくて悩んでるお母さん達!!大丈夫だ」と母親たちにエールを送った。
　また、エジプト出身タレントのフィフィも6日にTwitterで、「まず母乳で育てるべきという概念を変えていくべきです。私は乳の出が悪く、それがストレスになるなら粉にしたらいいと医者にアドバイスされました。母体のコンディションに左右されず一定の栄養を与えられるメリットもあります」と自身の体験談もまじえて母乳神話に疑問を投げかけた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150709-00000027-rbb-ent

実は３月にオンラインでの「母乳」の取引問題を採り上げているのだった*2。但し、それは英米での話。日本でも問題になり始めているのね。勿論、英米の場合は、「母乳」を求めているのは乳の出の良くない母親だけでなく、「母乳」の不思議な力を信じる癌患者やボディビルダー、そして母乳フェチの人もそうなのだが、日本の場合はどうなのだろうか。乳母という制度が廃れ*3、「もらい乳」という慣行もHIVのリスクために禁忌になってしまった現在*4、こんなにリスクに無防備な商品を売るビジネスが活性化しているということが不思議だ。それほど「母乳神話」が強力であるわけか。でも、「母乳神話」はそんなに古くない筈だ。1970年代くらいまでは、世界的にこれとは逆の脱「母乳」神話みたいなものが広まっていたのでは？　「母乳」は何となく古くさくて、粉ミルクこそがモダンな授乳だというふうな。粉ミルクに必要なもの、それは清潔な水と無菌状態に保った哺乳瓶やちくびであろう。清潔な水や煮沸消毒を可能にする経済的・社会的・技術的前提があってはじめて粉ミルクは母乳の代替品として十全に機能する。こうした条件が完備しない第三世界などでは、粉ミルクはかなり悲惨な結果をもたらした。第三世界の貧しい女性たちに無責任に粉ミルクを売りまくったとして、ネスレなどはグローバルな糾弾の対象となった筈である（Cf. 犬養道子『人間の大地』）。皮肉にも、貧しい第三世界ならぬ先進国のサイバー・スペースで売買される「母乳」はかつての第三世界の粉ミルクと同様なリスクを抱えているのだった。