かなり前に食前の「いただきます」の是非について議論があったのだが*1、最近また再燃しているようだ。といっても、11月のことだけど。
「「いただきます」の効能」http://d.hatena.ne.jp/washburn1975/20131109
今は文章がすっかり消えている「「食事前に手を合わせて『いただきます』」に違和感がある 「食事前に手を合わせて『いただきます』」に違和感がある」という「はてな匿名ダイアリー」が引用されている*2。それには、「いただきます」は誰に言うのかという問題が含まれているのだが、それは後で(おちゃらけながら)言及することとして、先ずはwashburn氏の意見を引用してみる;
これは、ファン・ヘネップ流にいえば「通過儀礼」(rite de passage)ということになるだろう(『通過儀礼』)。まあファン・ヘネップによれば、色々な儀礼の1つとして「通過儀礼」があるのではなく、儀礼というのは全てが「通過儀礼」だということになるのだが*3。まあWashuburn氏の文を読むと、中井久夫先生が「昼食は、多くの医者がとらない。外国の医者がふしぎがるのだが、一度リラックスすると、もう一度、「診察モード」を立ち上げるのが大変なのである」(「一精神科医の回顧」*4、p.146)と述べているのが、何となく納得できる。ただ、一方で、「おいしさ」ということだと、いちばん美味しい食べ方というのは突発的な摘み食い(盗み食い)なんじゃないかなとも思う。或いは(自分でつくるときだと)味見のための試食。とにかく、生活の中で或るモードから別のモードに移行するためには、なんらかの「儀礼」を要するということだ。まだ煙草を吸っていた頃の煙草の多くは、そのようなモードとモードを繋ぐために使われていたし、多くの人にとって、朝の珈琲とか風呂上がりの牛乳というのはそういう意味を持つのではないか。
では、ぼくがなぜ「いただきます」「ごちそうさま」を言うかというと、それは別に「生命をいただくことへの感謝」とかそういう宗教くさい理由ではありません。そうしたほうが食事の満足度が増すからです。このブログやツイッターで、食べ物の話をよく書いているせいか「グルメ」なんていわれることもあるぼくですが、基本的に「何を食べてもおいしい」タイプの人間です。世の中のあらゆるオブジェクトは「おいしいもの」と「食べられないもの」の2種類に分けられる、というのがぼくの世界観です。ぼくにとって、「食べられる」ということはすなわち「おいしい」ということです。
こういう人間は、味覚が貧しいとよく言われるのですが、ぼくはそうは考えません。世間では、何を食べてもまずいという人、おいしさのハードルが高い人を「味覚が鋭い」「グルメ」と評することが多いのですが、ぼくに言わせればそういう人はおいしさに対する感受性が貧しいんです。まずさの感度だけが発達した、いびつな人間だっつう話ですよ。それに対して、ぼくはおいしさの感受性がズバ抜けて鋭敏な人間なんです。何を食べてもおいしい、ってのは恥じるべきことじゃないです。
(略)「誰にも邪魔されず自由で」「救われて」「独りで静かで豊かで」いる状態を作るためには、お店の環境のみならず、自分の精神的チューニングも調整する必要があるのです。
人間には視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感がありますが、通常、人間は視覚を最優先にして生活しています。犬なら嗅覚、コウモリなら聴覚が優先されていますが、人間は視覚を中心にして世界を認識しています。それを味覚中心にスイッチするためには、儀式が必要です。
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「いただきます」を誰に言うのというのは人それぞれで、クリスチャンの場合なら、神ということになるだろうし、「小沢信者」の場合なら、小沢先生に決まっている。ただ、10年後の道徳教科書では、もしかしたら、
兵隊さん
が正解になるかも知れないのだが。
*1:See http://d.hatena.ne.jp/rna/20060129/p1 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060129/1138562129
*2:http://anond.hatelabo.jp/20131109090508
*3:「しきり」ということだと、柏木博『「しきり」の文化論』という本があった。
*4:Mentioned in http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20131206/1386267332