「某歴史学者」

早坂忠はけっこう直ぐにわかったけれど*1、こちらの方は珍紛漢紛。
丸谷才一陰謀理論のこと」(in 『月とメロン』*2、pp.264-281)から。曰く、


(前略)英文科の先輩である某氏は、アメリカ文学の研究者になる前、さる新聞の記者であったのだが、その当時、某歴史学者の連載随筆を担当した。この歴史家は粋人で、艶笑随筆で有名な人だったのである。
そこでわが先輩である記者は、原稿をもらふため、その学者の妾宅に毎週通ふ。学者はお妾さんの所で暮してゐて、ときどき本宅に帰るのだ。
ところが、出かけてみても原稿は出来てゐない。そこで先輩が待つてゐると、お妾さんが同情してお茶をいれてくれる。お茶を飲みながら世間話をしてゐると、お妾さんが先生の性生活について打明け話をした。
先生はかなりの年なのだが、寝室兼仕事場において孜々として学問に励む。励んでゐるうちにむらむらと欲情が湧いてくる。さうすると隣室のお妾さんに声をかけ、たちまちおこなふのださうである。
「あたしもずいぶん好きなほうだけれど、うちの先生にはかなひません」
としみじみと語った由。
(略)この先生はそんな具合に精力を濫費しながら、学問にもいそしんでゐた。専門違ひのわたしにはわからないが、ずいぶん成果をあげたらしい。たしか学問のほうの立派な賞も受けてゐる。(後略)(pp.279-280)
「某歴史学者」も、そして某「アメリカ文学の研究者」も誰?
月とメロン (文春文庫)

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