「記憶」の起源(メモ)

「私」の心理学的探求―物語としての自己の視点から (有斐閣選書)

「私」の心理学的探求―物語としての自己の視点から (有斐閣選書)

榎本博明『〈私〉の心理学的探求』からメモ。


フィヴォッシュたち*1によれば、二歳くらいになると人から尋ねられれば以前の記憶について思い起こすことができるが、自分自身をひとつの物語をもった存在としてとらえることはない。自分の人生という物語は、物語を生み出す能力の発達と並行して、三歳以降に徐々に獲得されていく。過去への自己の拡張は、人生物語を構成するエピソード記憶によっって、より確かなものとなっていく。(pp.82-83)

(前略)T・J・ダディカとM・M・ダディカ*2はもっとも早い時期の記憶をたどるとその平均月齢は四二カ月前後であることを見出し、ハリデイも最早期記憶の平均月齢は三九カ月前後であると報告している。このことは、自伝的記憶を構成するエピソードをたどっていくと三歳の頃まではさかのぼれるが、それ以前に到達することはできない、三歳以前のエピソードは自伝的記憶の中に保持されてないことを示唆するものといってよいだろう。(p.83)

(前略)シャインゴールドとテニー*3は、最近一年以内に弟妹が誕生した四歳児と、四歳の時に弟妹が誕生した八歳児、一二歳児、大学生に対して、弟妹の誕生にまつわる記憶に関する面接調査を行った。具体的には、母親が出産のために入院する直前、入院中、そして母親と赤ん坊が病院から帰宅した時の生活史上の出来事に関して質問した。その結果、どのくらい覚えているかには年齢差がみられないことがわかった。つまり、直前に弟妹の誕生を経験した四歳児から一六年前に弟妹の誕生を経験した大学生に至るまで、記憶量に差はみられなかったのである。ここから、弟妹の誕生といったとくに印象的な出来事に関する情報は、少なくとも一六年間は保持されていると言うことができる。さらに、三歳以前に弟妹が誕生した大学生と四歳以降に弟妹が誕生した大学生に面接調査した結果によれば、三歳以前に誕生したという者のほとんどが誕生時のエピソードをまったく記憶していないのに対して、四歳以降に誕生したという者で何も覚えていない者は三九人中たった一人きりであった。ここから、弟妹の誕生という一六年以上も保持される印象的な出来事でも、四歳に満たない時点で起こったことであれば自伝的記憶に組み込まれていないと言ってよいであろう。(pp.83-84)
See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120224/1330041925 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120225/1330174519 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120515/1337106717 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120518/1337267927

*1:Fivush, R., Gray, J. T. & Fromhoff, F. A. "Two-year-olds talk about the past" Cognitive Development, 2, pp.393-407, 1987

*2:引用を省略した部分でコーエン『日常記憶の心理学』が指示されているが、ダディカ&ダディカの文献についての指示はない。ハリデイの文献についても同様。

*3:シャインゴールド&テニー「児童期の顕著な出来事の記憶」