整形、ミメーシス(池谷、中村)

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120529/1338307685に関連して。


中村うさぎ*1池谷裕二*2「「私」と「あなた」の境界線」『波』(新潮社)505、2012、pp.66-73


少しメモ。


池谷 ところでうさぎさんは、美容整形するときにボトックスは使ってますか。
中村 おかげさまで、バンバン使ってます(笑)。
池谷 ボトックスは筋肉を麻痺させるため、シワができにくくなるそうですね。だから、長期的には顔の老化を防ぐことができるかもしれないと。最近おもしろい論文が発表されました。ボトックスを使っている人は、表情を作りにくくなるだけでなく、他人の表情が読みづらくなるそうです。
中村 えっ、美容整形している私の表情が乏しくなるって話じゃなくて、私自身が他人の表情を読み取りづらくなるの!?
池谷 そう。たとえば、私がうさぎさんの感情を読み取ろうとすると、無意識のうちにうさぎさんの表情を真似しているんですよ。「えーっ!?」と驚かれたら、私も「えーっ!?」とわずかに真似しながら感情を理解する。うさぎさんがニコッと笑ったときには、私もニコッと笑って、相手の気持ちを理解する。真似することによって、相手の感情をシュミレートするのです。
中村 ボトックスを打ちすぎて表情が作りにくくなると、相手の表情を真似することができなくなる。すると相手の感情がわかりにくくなるってことか。ボトックスの打ちすぎには注意が必要だなあ。
池谷 真似をすることは、実に重要な行為です。赤ちゃんは大人がニコッと笑ったら、真似してキャッキャと笑うでしょ。大人がイナイイナイバアをやったら、赤ちゃんも眼を大きく見開いて喜ぶ。真似は高度な行為ですよね。相手が何をしているのか認識するだけでは不十分で、自分のどの筋肉を動かせばいいのかを認知していなくては真似できません。
中村 どういうふうに自分の筋肉を収縮させればいいのか、真似の仕方がよくわかっているのか……。赤ちゃんって実はかなり高度な作業をやっているんだね。
池谷 好感度を調べる実験をやってみると、相手の仕草や表情を真似している人は、好感度が高いんですよ。
中村 逆に言うと、お互いに相手のことが気に入っているから、仕草や表情を真似するのかもしれない。
池谷 その可能性もありますね。ちなみに、檻の前でサルのやったとおりに真似すると、サルに好かれるようです。
中村 サルに惚れられても困るけど、人間の男と会ってるときには今の話はかなり参考になる(笑)。
池谷 真似は赤ちゃんも積極的に取り入れているくらいですから、かなり基本的な行動です。
中村 何十年も一緒に暮らしていると、夫婦ってやけに似てくるじゃないですか。あれって絶対、無意識のうちにお互いの仕草や表情、笑い方を真似しているからだと思うんだよね。
池谷 好きな者同士ほど真似しますよね。パートナーのやっていることを、自然とイミテーションしているのだと思います。人間は「私」に心があるよりも先に、「他人」に心があることを知っていたと思うんですよ。ジャングルでガサゴソ音がしたときには、味方か敵かを判別しなければいけません。相手に意図があることを仮定することで、その心を読んだり、行動を予測したりすることができる。それができた上で、「アイツには心があるんだな。ということは、ひょっとして俺にも心があるのか?」と気づいてしまったのが人間ではないでしょうか。(pp.69-70)