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「悲しき熱帯」の記憶―レヴィ=ストロースから50年 (中公文庫)
- 作者: 川田順造
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/10/23
- メディア: 文庫
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川田順造*1『「悲しき熱帯」の記憶』を読了したのは「空調工事」*2が始まる以前だった。
雑誌『ブルータス』のために書かれた1984年の伯剌西爾紀行(IとII)、そのスピンオフである「開発」を巡っての論攷(III)*3、伯剌西爾の民衆本「紐の文学(literatura de cordel)」を巡る小論(IV)*4、また1996年に書き下ろされた「南蛮時代」という鍵言葉で葡萄牙という磁場における(安土桃山時代の)日本、伯剌西爾、西アフリカの比較を試みた論攷(V)*5、からなる。「あとがき」では東京大学文化人類学研究室とラテン・アメリカとの奇妙な因縁についての言及が興味深い(pp.210-212)。また「文庫版あとがき」では、著者の師匠に当たるレヴィ=ストロースの死*6を巡るレヴィ=ストロース夫妻のサルコジに対する〈しっぺ返し〉が触れられている*7。
I 反世界としてのブラジル
II 灰まみれのモラトリアム・ピーターパンたち
III なぜ熱帯は今も悲しいのか
IV 「紐文学」と口誦の伝統
V 私にとってのブラジル――十二年ののちに――
あとがき
文庫版あとがき
参考文献
タイトルにもあるように、この本のハイライトはレヴィ=ストロースが調査し『悲しき熱帯』で記述した「ナンビクワラ族」の〈いま〉を訪ねるところにあるといえるだろう。特に『悲しき熱帯』に掲載されている「呪術首長」の写真を見せたところ、或る(著者には「四十代か、せいぜい五十そこそこにしか見えない」老人が「それは私です」と名乗り出てたところ(pp.80-81)。勿論それ以外にも、この本は鋭い省察や興味深い見聞が満載ではある。というか、ちょっと前に管啓次郎『コロンブスの犬』を久しぶりに捲ってみて*8、 伯剌西爾についてのエクリチュール、特に紀行文にはつまらないものはないな、と感じたのだった。川田先生のこの本も例外ではない。それから、「あとがき」によれば、著者は1984年の「四月はじめのある朝」に、「雑誌『ブルータス』の編集者を名乗る小黒一三という人から突然電話を受け、同誌の一〇〇号記念にブラジル特集を組むので、ゲストとしてブラジルへ行かないかという誘いを受けた」(pp.209-210)、「唐突な話で一瞬戸惑ったが、受話器を伝わってくる小黒さんの声には、第一声から人の心を武装解除し、うむをいわせず引きずりこむ、動物磁気のような吸引力があり、確かな見通しももてないまま、私はその場で引き受けてしまった」という(p.210)。小黒一三という人は色々な噂を聞くが、取り敢えず斎藤槙『社会起業家』、それから栗本慎一郎の『東京の血は、どおーんと騒ぐ』をマークしておく。
![悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス) 悲しき熱帯〈1〉 (中公クラシックス)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41MSK0Q8CBL._SL160_.jpg)
- 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/04/01
- メディア: 単行本
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- 作者: レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田順造
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 新書
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![コロンブスの犬 (ラテンアメリカ・シリーズ―コレクション・ブラジル) コロンブスの犬 (ラテンアメリカ・シリーズ―コレクション・ブラジル)](https://d.hatena.ne.jp/images/hatena_aws.gif)
コロンブスの犬 (ラテンアメリカ・シリーズ―コレクション・ブラジル)
- 作者: 管啓次郎
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 1988/12
- メディア: 単行本
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- 作者: 斎藤槙
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/07/21
- メディア: 新書
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東京の血は、どお-んと騒ぐ―冒険者たちの黙示録 (1983年) (Century press)
- 作者: 栗本慎一郎
- 出版社/メーカー: 情報センター出版局
- 発売日: 1983
- メディア: ?
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*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100518/1274141582 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120102/1325438155 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120109/1326036106 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120113/1326474831 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120128/1327771162 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120217/1329420414 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120227/1330362485
*2:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120512/1336835726
*3:80年代に書かれたテクストなので、川田先生はグローバル化という言葉を使ってはいないが、グローバル化に関する先駆的な省察であることはたしかだろう。
*4:文献として、荒井芳廣「ブラジル北東部における民衆的小冊子――リテラトゥーラ・デ・コルデル」(『国立民族学博物館研究報告』7-3、1982、pp.585-631)が挙げられている。荒井氏は中牧弘允編『神々の相克』の中でたしか伯剌西爾の宗教的な民衆本を考察していた筈。
*5:論点は勿論それだけではない。
*6:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091103/1257281098 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091105/1257360030 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091106/1257478263 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20091109/1257705586
*7:「この文庫出版の企画も、レヴィ=ストロース没後1年という時期に合わせたものだ」(p.220)。
*8:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120221/1329846488 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20120223/1329954273