或る霊的虐待から

『読売』の記事3つ。


宗教施設で中2娘暴行死、容疑の父と僧侶逮捕


 中学生の娘に「滝行」と称して水を浴びせ死亡させたとして、熊本県警は27日、父親の熊本市帯山3、会社員舞鴫
まいしぎ
淳(50)と、同県長洲町宮野の僧侶、木下和昭(56)の両容疑者を傷害致死容疑で逮捕した。2人は「除霊のため」として、3月頃から同様の行為を100回以上繰り返していたという。

 発表によると、2人は8月27日午後9時頃、同町宮野の宗教施設「中山身語正宗なかやましんごしょうしゅう玉名教会」で、舞鴫容疑者の次女で熊本市立帯山中2年ともみさん(13)を椅子に座らせ、腕や足をベルトで縛り、「滝行」と称して、約5分間、顔を上に向けさせた状態で水を浴びせるなどの暴行を加え、死亡させた疑い。ともみさんが意識を失ったため、救急車を呼び、病院に搬送したが、翌28日午前3時40分頃に死亡した。死因は窒息死。

 2人は調べに対し、「娘に悪霊がついている。除霊すれば治るので、『滝行』を行っていた。嫌がって暴れたので椅子に縛り付けた」と供述し、「暴行ではない」と否認しているという。

(2011年9月27日 読売新聞)
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20110927-OYS1T00749.htm


「除霊」致死の宗教法人、信者は30万人


 中学生の娘に「滝行」と称して水を浴びせ死亡させた事件のあった宗教施設「中山身語正宗
なかやましんごしょうしゅう玉名教会」。


 文化庁によると、中山身語正宗は1952年に宗教法人の認証を受けた。

 全国約350か所に寺院や教会などがあり、信者は30万5555人(2008年12月末現在)。佐賀県基山町宮浦にある中山身語正宗大本山瀧光徳寺は、読売新聞の取材に対し、「情報が入っていないので分からない」と話した。

(2011年9月27日13時15分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110927-OYT1T00669.htm


100回超す「滝行」…中学生の娘?泣き叫ぶ声

 教会の中でいったい何が行われていたのか。熊本県長洲町で中学生の娘に水を浴びせて死亡させたとして、27日に父親と僧侶が逮捕された事件。教会の外には日頃から、泣き叫ぶ声などが漏れていたといい、住民らは「まさかこんなことが……」と声を震わせた。

 亡くなった舞鴫(まいしぎ)ともみさん(13)が通っていた「中山身語正宗(なかやましんごしょうしゅう)」の教会は山あいにあり、入り口には「南無 身体健全祈願」などと書かれたのぼりが掲げられている。

 中山身語正宗はホームページで、「読経や滝行などを積み重ねることで、みほとけの心を授かることができる」と説いている。

 熊本県警によると、会社員舞鴫淳容疑者(50)は、次女ともみさんに「除霊するためにやらないといかん」と強制。教会に行った際はほぼ毎回、顔などに水を浴びせる「滝行」を行った。1回あたり約5分間で、今年3月頃から計100回を超える。ともみさんが嫌がって暴れ出すと、いすに縛り付けたという。

 教会と同じ敷地内に住んでいる僧侶木下和昭容疑者(56)。27日午前、教会前で報道陣の取材に応じた妻(61)は「夫は会社勤めをしていた頃から自宅に来た人に仏の声を伝えていたが、3〜4年前に会社を辞め、本格的に宗教に携わるようになった」と説明。「悪霊を払うために一生懸命やっていたが、まさかこういうことが起きるとは。残念としかいいようがない」と話した。

 「痛い、痛い」――。教会の近所に住む主婦(66)が泣き叫ぶ声を聞くようになったのは今年に入ってから。当初は夜中だけだったが、6月頃からは昼間にも聞こえるようになった。教会には信者とみられる約40人が集まっていることもあった。主婦は「虐待かもしれないと警察に通報しようと思ったこともあった。まさかこんな事件が起こっていたなんて」とショックを隠さない。

 嫌がる女性を大人2人が羽交い締めにするように教会内に連れ込む姿を目撃した女性も。近所の男性(70)は「体の悪いところを治すためといって、信者とみられる人がよく来ていた」と、事件に驚いた様子だった。
(2011年9月27日16時16分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110927-OYT1T00938.htm

「除霊」についてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100729/1280393435で言及したことがある。悪霊に対して〈水責め〉というのはあまり聞いたことがない。ただ、今回も以前と同じようなことを感じた。「除霊」といっても、具体的にどういう種類の霊なのかという情報がない。それから、霊に憑かれたという場合、異常な言動とかいった〈症状〉がある筈なのだが、そうした情報がなく、ただ「虐待」だけがクローズ・アップされている。ところで、近代科学というか近代的な精神医学も基本的には「中山身語正宗」と差不同だよね。こちらの方では、科学的に構築された悪霊である〈狂気〉を除去するために患者を監禁・拘束したりしているわけだから。これを巡っては、やはり大熊一夫『ルポ・精神病棟』*1をマークしておくべきだろう。また、石川信義『心病める人たち』も。
ルポ・精神病棟 (朝日文庫 お 2-1)

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心病める人たち―開かれた精神医療へ (岩波新書)

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そもそもシャーマンを呼んで「除霊」を行うことは近所の者たちを招いた宴会を企画することだった。近所の人たちは飲み食いをしながら、シャーマンvs.悪霊の対決という芝居を見物していたともいえる。こうした除霊=宴会というのは大和族では廃れてしまったかも知れないが、在日韓国人朝鮮人の一部には残っている筈。たしか映画『パッチギ! LOVE&PEACE』*2でもそういうシーンが出てきた筈。何が言いたいのかといえば、精神の錯乱が演劇的パフォーマンスと共同体的な蕩尽(散財)によって対処すべきものから個人的に医療制度や新宗教に依存することによって対処すべきものへと変容したことが、このような「虐待」事件の背景としてあるんだなということ。
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中山身語正宗*3真言宗系の新宗教といわれるが、九州ではそこそこ有名なものの、全国区的な教団とはいえないのではないか。九州大学の宗教学科がたしか調査研究していた筈。その教義は真言密教のほかに(九州で盛んであった)浄土真宗の異端の影響もあるようで興味深いということはあるのだが。