中二化の時代?

現代という時代の気質 (晶文選書)

現代という時代の気質 (晶文選書)

またもやエリック・ホッファー『現代という時代の気質』からの抜書き。
第1章「未成年の時代」から。


(前略)とくに二十世紀にはほとんど全世界的な規模で少年化の現象がみられる。共産主義ファシズム、人種的偏見(クー・クラックス・クラン団)、その他世界の低開発地域で現在勃発している大衆運動の少年的性格は誰にでもすぐわかるだろう。新興国あるいは復興国の指導者はほとんどすべてがその性格形成にきわだって少年的な要素をもっている。(pp.16-17)

(前略)少年性というのは年齢の問題というよりもむしろ精神の状態ではないだろうか。ティーンエイジャーはどの年齢層にもいるのではないだろうか。一五〇三年、枢機卿ジュリアーノ・デラ・ロヴェーレは六十歳で法王に選ばれた。彼はジュリアス・シーザーにちなんでユリウス二世を僭称したが、シーザーを史上最も偉大な人間とみなし、その生涯をまねようと決心した。したがって、老齢にさしかかりながら彼は鎧かぶとに身を固め、馬にまたがり、征服者たらんとして出立したのである。あきらかに、少年の心性はその後においても、老年においてさえも存続したりあるいはふたたび現れたりするのものなのだ。(p.16)

少年化の過程を理解するためには、青少年における少年的心性の起源について知るところがなければならない。青少年と成人のちがいを大脳構造や神経系統に求めてもなんら得るところはない。そこには明確に示しうる差異というものはないからである。せいぜい青年の行為は主として彼の存在様式、彼が自己を発見する状況によってひき起こされる、と想定できるぐらいだろう。これは、成人もまた同様な状況におかれれば多かれ少なかれ少年のように行動する、ということを意味する。
さて、青年の実存のおもな特徴はその中途半端さにある。それは少年期から成年期への移行の一様相、根の喪失とドラスチックな変化の一様相である。もしわれわれの想定が正しければ、他のタイプのドラスチックな変化も幾分かは同様な心理的パターンを呈示するはずである。一国から他国へ移民する人々、ひとつの信仰から他の信仰へ改宗したり、ある生活様式から別の様式へ移行したり――農民が工場労働者に、奴隷が自由人に、民間人が軍人になったり、低開発国民が急激な近代化を蒙ったりしたときのように――する人々と青年とのあいだには血縁的な類似性がある。のみならず、活動的な人々――労働者、農民、実業家、将官を問わず――で突然引退する者、また更年期にさしかかった女性でさえ、青年を思わせる態度を示すことを考慮しなければならない。(pp.17-18)

(前略)青年は推移する人間の原型である(略)どの年齢層、どの状況にある人間であれ、ドラスチックな変化をこうむるときには青年の少年期から成年期への移行をある程度繰りかえすわけである。老人でさえ引退という突然の変化を経験するときには子供っぽい衝動、性向、態度を示すことがある。このことはとくに、余暇が活動的生活の構成要素として認められていないアメリカにおいてあてはまる。かくして引退した商店主や農場主は南カリフォルニアを青年的儀式、空想的社会体制、奔放な陰謀の温床にしてしまった。まぎれもなく少年犯罪のにおいのするバーチ運動*1は引退した菓子製造業者によって創始され、引退した財界幹部、陸海軍の将官によって支持されている。(p.24)
「ドラスチックな変化」というのは鬱病発症のトリガーでもあった。

(前略)後期新石器時代に発達した技術は、産業革命にいたるまでほとんど変化を受けていない。われわれとジョージ・ワシントンをへだてる溝の方が、彼とキオプス王のために働いたエジプト農民をへだてる溝より大きいのだ。したがって、人間の本性には変化に対する生得の抵抗力がある、と推測することも誤りではないだろう。新しいものをただ恐れるばかりでなく、われわれの奥深いところには、われわれは真に変化することはできない、みずからを新しいものに適応させながら古い自己を保持することはできない、脱皮して新しいアイデンティティを装うことによってしか新しいものの一部になることはできない、という確信があるのだ。いいかえれば、ドラスチックな変化は自己疎外を生み、新生と新しいアイデンティティを生じせしめるのである。そしておそらく変化の過程がスムーズにすすむか、動乱や爆発をともなうかは、この必要がどんなふうに満たされるかにかかっている。(pp.20-21)
この次のパラグラフでは、ファン・ヘネップの『通過儀礼』が援用され、「未開社会」における成人儀礼が言及されている。青年期と「通過儀礼」については山口昌男『学問の春』第七講「文化は危機に直面する技術」*2も参照のこと。そういえば、川本三郎に『走れナフタリン少年』という本があった。
新書479学問の春 (平凡社新書)

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走れナフタリン少年 (中公文庫)

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