Street-unwiseなど

承前*1

「暴動理論」http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/archives/51802552.html


以前英国の「アンダークラス」に関するこの方の考察に言及したことがある*2。倫敦暴動を巡って;


ロンドン暴動を美化してはいけない。
イギリスでライオットなどというと、すぐ音楽とかそういうカルチャー面を持ち出してスタイリッシュに捉えようとする御仁がいるようだが、今回の暴動は違う。
ガキ共が集団でたむろって盗んで火をつけただけだ。中には盗品を並べて自慢している写真をネット投稿して警察にしょっ引かれたバカたれもいるし、アンダークラスのローティーン暴動参加者などは親から車で送り迎えしてもらっていたという話もある。あのクラスの家庭では、「店を燃やす前に、あんたら母ちゃんにもナイキのスニーカー盗んで来てよ」みたいなフェスティバルなう感が絶対にあったんだろうなあ。というわたしの読みは当たった。
あの世界は、わたしが知っている限り、ラップというより西原理恵子の「ぼくんち」である。

逮捕されている暴動参加者にミドルクラスの子女が目立つし、高価な携帯電話でのみ使用可能なネットワークを使って広がった暴動なので、どうやら貧困層の暴動ではなかったようだ。などという報道もあるが、これもまたストリートの現実からは微妙にずれている。
ミドルクラスの子女が目立って捕まっているのは犯罪慣れしてないからで、どこにCCTVが設置されているとか、それ故どの店のどの付近では顔を上げてはいけないとか、そういうストリート犯罪のいろはが全然わかってないので真っ先に面が割れているだけである。
また、わたしは自らの経験から、貧しい地区のガキ共が往々にして高価な最新モデルの携帯を持っているのを知っている。買えない人間は盗むのだということを、また、貧民街では盗品安価販売の地下ネットワークが充実しており、小ぶりなのでスリ易い携帯電話は常にそのメイン商品であるということを、そういう街で暮らしたことのない報道関係者は知らないのであろう。

Street-wiseに対するstreet-unwiseか。
ぼくんち―スピリッツとりあたまコミックス (1)

ぼくんち―スピリッツとりあたまコミックス (1)

ぼくんち (2) (スピリッツとりあたまコミックス)

ぼくんち (2) (スピリッツとりあたまコミックス)

ぼくんち (3) (スピリッツとりあたまコミックス)

ぼくんち (3) (スピリッツとりあたまコミックス)

さて、同じ方の昨年末のエントリー;


ボヴァリー夫人と定規の目盛り」http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/archives/51737148.html


英国における成人向け算数教室の話。


掛け算、割り算はおろか、足し算、引き算で躓いている。定規の目盛りも読めない。

これ、元ドラッグ中毒とか13歳で妊娠したとかで学校を中退した若人ばかりではない。

わりと普通に働いているおっさん、おばはんもいる。

「収入格差」も凄いけど、「教育格差」はもっと凄い。

というこの国の事情は頭では知っていたが、実際に24+8を前にして手も足も出なくなっている英国人の大人がずらりと並んで座っているのを見た時には言葉を失った。

これは英国だけの話ではないだろう。日本でも今までseen but unnoticedだっただけなのでは? 「足し算、引き算で躓いている」かどうかはわからないけれど、「分数ができない大学生」というのもあるのだった*3
また、

ポリティクスは、立ち位置ではない。志向する方向性なのだ。

どんな国がクールなのか。どんな国になればクールだと思うか。の個人的美意識が、ジャスティスだのポリティカルイデオロギーだのといった難しい言葉で置き換えられているだけで、本来ポリティクスなんてそんな複雑怪奇なものであってはならないはずだ。

というのは重要。「収入や階級のバックグラウンドとは関係なく国民すべてが15+7の答えがわかって、−2℃と−6℃ではどっちが寒いのかわかる国のほうが美しい」というのはその通りだよ。

今回の英国の暴動ではなく1980年代の英国に頻発した暴動を巡って、スチュアート・ホールは(グラムシを援用して)organic crisisという言葉を使っていたと思う。「収入格差」とか「教育格差」とかが進行する一方で、(〈勝ち組〉・〈負け組〉ひっくるめての)国民総「アンダークラス」化とでもいうべき事態が進展しているのではないかとも思ってしまう*4

盗品ケータイの「安価販売の地下ネットワーク」という話が出ていたのだが、それよりもスケールが大きな(値段が高い)盗品の話;


Associated Press “Rembrandt drawing stolen from California hotelhttp://www.guardian.co.uk/artanddesign/2011/aug/16/rembrandt-stolen-california


LAのリッツ・カールトンのロビーに展示されていたレンブラントの素描「審判」が一瞬のうちに盗まれたという話。これってまだ犯人は捕まっていないんだよね。Associated Pressの記事を読んでいて面白かったのは、国際的な盗難美術品データベースArt Loss RegisterのChris Marinello氏の話。ハリウッド映画にありがちな、パラノイア的な美術愛好家の金持ちが泥棒を雇って美術品を盗ませるということは殆どない。また、盗難美術品は「裏社会(underworld)」において麻薬その他の違法商品取引の決済に使われることが多いという。それから、泥棒たちに最も人気があるアーティストはパブロ・ピカソ。なお、Anthony Amore氏によると、最近100年間にレンブラントの作品の盗難は(明るみに出たものだけで)81回ある。

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110816/1313466911

*2:http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/archives/51465297.html http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090721/1248194373

*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110222/1298300941

*4:これについては、David Harveyのテクスト(http://www.counterpunch.org/harvey08122011.html)とかも参照して、改めて考えてみたいとは思う。また、この事態に日本も無縁ではないことについては、例えばhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20110513/1305215163を参照のこと。