結局それはハッピーだということじゃないか

Juzou Takayanagi「日本人が英語ができない4つの理由」http://www.makeleaps.com/blog/2011/08/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%8C%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%94%E3%81%A4%E3%81%AE%E7%90%86%E7%94%B1/


何故これに300以上のブクマがついているのか。そっちの方がわからない。「訳読」法への批判というのは日本における英語教育批判の定番ともいえるわけだし*1。でも、面白いことや明らかに間違ったことも書いてある。
面白いというか、読んでいて苦笑してしまったのは、日本語のシンタックスがSOVであるのがいけないということだ。これって、英語はできないけれど屁理屈を捏ねる脳力のある学生が言いそうな言い訳じゃない? まあまともな教養のある日本人なら英語以前にSVOに親しんでいる筈だけどね。それは漢文。因みに、現代中国語、つまり満洲族によって洗練されたマンダリンは基本的にはSVOであるものの、古典的な漢文よりも、文の構造はずっと日本語に近いところがある。それはともかくとして、SVOとSOVの差異こそ、最近では「アインシュタイン」事件が起こったり*2、以前から翻訳家は別宮貞徳先生の筆誅に怯えていたりということはあっても、日本語訳が(例えば仏文英訳よりも)優れたものになりうる言語学的条件なのだ。シンタックスが基本的に同じである英仏、英独間などでは、例えばceをitに、estをisに、unをaに、garconをboyに置き換えることで、機械的に翻訳ができてしまう。それに対して、シンタックスが違えば、そこに熟考の余地が生まれるのだ。
それから、日本語に「無声音」がないというのは誤り。日本語には清濁の区別があるけれど、それは無声音/有声音の区別である。この人は閉音節/開音節の区別を無声音/有声音の区別と取り違えているのだ。実は日本語には無声音がないどころか、英語のネイティヴ・スピーカーが思いもつかない無声音があるのだ。英語的な常識では母音は全て有声音だから開音節は全て有声音で終わることになる。ところがどっこい、日本語では母音が無声化する。日本語話者の多くは、例えば文末の


です(desu)
だった(datta)


の「す」や「た」を、そうとは意識せずに無声化しているのではないだろうか。或いは、この場合の「す」や「た」をはっきりと有声音として発音すると、却って子どもっぽいというか幼稚な感じがしてしまうのではないだろうか。
さて、


皆さんはどのようにして日本語が話せるようになったかを思い出してほしい。最初の段階では、親が発する言葉を聞いて、その言葉を必死で真似てできるようになったのではないか?そして、学校へ通い、新しい言葉を学び、日本語が上達したのではないか?つまり、言語というのは、恒常的に使い続けることによって会得、上達する物である。

次は、皆さんの普段の生活を振り返って欲しい。日常生活で英語が使えなくて困ったことはあるだろうか?私が思いつく限りでは、ほ と ん ど な い。外国人に道を尋ねられたぐらいだ。日本は日本語だけで、死ぬまで生活ができる国なのだ。例え学校で実践的な英語を学んだとしても、日常生活で恒常的に使用しなければ定着しない。

また、幼少時に海外に在住していた人も日本に来ると英語を忘れる方が多い。一度覚えても、続けて使わないと忘れてしまうからだ。
筆者も、小学1〜5年生の時に日本のインターナショナルスクールに通学、小学6年生から1年半オーストラリア留学した経験がある。当時は英語圏の子供の年齢相応の英語力を所持していた筆者でも、中学1年生の時に日本に戻ってから英語をだいぶ忘れた。授業以外で英語を使わないので、日本で年を重ねるごとに英語が抜けていった。

これを読む限り、日本人は英語ができなくてもハッピーなのだから、別に英語ができなくてもいいじゃんと思ってしまう。まあ、日本で英語の公用語化を許すと、知的な階層分化が昂進して、例えば新聞や雑誌もハイ・ブラウな評論を載せる英語の新聞・雑誌とDQN向けの日本語の新聞・雑誌に二極分化してしまうことになるとおっしゃっていた経済学の先生がいましたけれど(中尾茂夫『ハイエナ資本主義』、たしか)。それから、この方が「 中学1年生の時に日本に戻ってから英語をだいぶ忘れた」というのは、多分親の教育に問題があったからだと思う。年齢相応の英語の本を読み、英語による読書の習慣を定着させることを促さなかったのではないか。
ハイエナ資本主義 (ちくま新書)

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This is a penについてはhttp://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070123/1169521302も参照のこと。