水俣病と暴力(丸山徳次)

承前*1

水俣病を巡る文献として、


丸山徳次「「暴力」行為と構造的暴力――或る傷害事件を見る眼」現象学・解釈学研究会編『理性と暴力』世界書院、1997、pp.263-294*2


を取り敢えず追加。
このテクストで論じられる「暴力」は直接的には水俣病患者の川本輝夫が1972年7月にチッソの(複数の)従業員に行使した「暴力」である。この「暴力」故に川本は警視庁丸の内警察署に逮捕され、その後起訴された。1975年1月の東京地方裁判所による一審判決は「罰金五万円」「執行猶予一年」であり、控訴審において東京高等裁判所は1977年6月に「公訴棄却」判決を下した(p.280)。東京高裁は一審判決のみならず検察による起訴それ自体が正当化できないものであったと判断したわけだ(pp.283-285)。検察側は上告したが、1980年11月に最高裁第一小法廷は「上告棄却の裁定」を下し、この件は決着した。丸山氏は一審と二審の司法の論理を詳細に読み解くとともに、川本を「暴力」に追い込んだチッソ側の直接的暴力を跡付け、さらには水俣病を生み出し・こじらせた「構造的暴力」(pp.290-291)を論じている。ところで、川本は自分が逮捕・起訴されることになる「暴力」事件の直前に「チッソ石油化学」五井工場の従業員の暴行によって左足小指を骨折しているが、川本が凶器として使用した「副木」はこの骨折のために左足に当てていたものだった(p.279)。これらの「暴力」故にチッソ側関係者が逮捕されたり起訴されたりしたことはない。

理性と暴力―現象学と人間科学 (Phaenomenologica)

理性と暴力―現象学と人間科学 (Phaenomenologica)