朝鮮熊

去年池田香代子


また「クマ」という古語は奥まった隠れたところを意味し、それはすなわち神威、聖なるものを意味します。熊野、熊本、阿武隈などの地名も、そうした古代信仰に関係しています。クマは、この列島にいにしえから暮らしてきた人びとにとって、カミそのものなのです。環境省は、この列島の自然のカミをなんと心得る。
http://blog.livedoor.jp/ikedakayoko/archives/51494187.html
と書いたのに対して、

(電子辞書の)『広辞苑』を見たのだが、クマ(隈、曲・阿)と熊との関係には言及されていなかった。というか、熊の語源については何も言っていない。クマ であるが、『広辞苑』の挙げる用例によれば、「奥まった隠れたところ」という意味よりも、「道や川などの湾曲して入り込んだ所」という意味の方が古いよう だ。前者の用例が『源氏物語』であるのに対して、後者の場合は『万葉集』。まあ一般的に言って、クマは英語のfringeに対応すると言っていいだろう。 また、アイヌイオマンテはともかくとして、和人の神道における熊を巡る祭祀や儀礼についてはよくわからない。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20101102/1288712069
とコメントしたのだった。
さて、金文京『漢文と東アジア』を読んでいて、このことを思い出した。朝鮮の檀君神話*1について、「『三国遺事』などに見える朝鮮の建国神話では、天上の桓因の庶子である桓雄天王が、太白山頂に天下り、熊の化身の女と結婚して生まれた子、檀君王倹が、平壌に都を置き、朝鮮を建国したということになっている」と書かれている(p.139)。檀君は「熊」の息子だということになる。だとすれば、朝鮮半島においては熊が神聖視されていた(いる)可能性はあるのではないか。ただ、熊を祀る祠などがあるのかどうかはわからない。
漢文と東アジア――訓読の文化圏 (岩波新書)

漢文と東アジア――訓読の文化圏 (岩波新書)

ところで、韓国では野生の熊は既に絶滅寸前になっているが*2、これは韓国人にとっては自らのアイデンティティに関わる神話論的危機であるともいえるのだろう。