「酸っぱいもの」(メモ)

子どもの世間 (現代の世相)

子どもの世間 (現代の世相)

松岡悦子「消費社会の出産と育児」(in 斎藤茂男編『子どもの世間 現代の世相3』小学館、1996、pp.55-86)からちょこっと抜書き;


かつては妊娠すると、女性は酸っぱいものが欲しくなると言われた。でも現代の妊婦は必ずしもそうではない。人によって納豆が食べたくなったり、ハンバーグやカレーだったり、またイギリスやフランスではチョコレートやアイスクリームだったりする。どこの国でも女性は妊娠すると嗜好が変わり、無性に何かを食べたくなるが、その食べ物は何らかの文化的意味を持っている。とくに普段女性が差別されているところほど、妊娠中の女性の欲求は強烈で、それを叶えるために夫は遠くの町まで買い物に行かねばならないこともある。たとえばスリランカでは、女性は妊娠すると毎日食べている米やカレーを食べたくなくなり、代わって祭りの日のごちそうや子どもの頃の食べ物、輸入される贅沢品、食べると流産すると言われる物などを食べたがる。また日頃の女性の役目である水汲みや薪割りも、夫が代わってするようになる。女性の願いを聞き入れなければ、胎児に異常がでると言われているからだ。
日本でもかつて妊婦はご飯の炊ける匂いや、味噌汁の匂いで吐き気を催したそうだが、これは言ってみれば、日常の女性の役割を思い出させる食べ物を拒否していたのだ。だが現代では、味噌汁が女性を象徴するとは言えないし、女性の固定的な役割も失われたせいか、妊婦が拒否する食べ物にも、無性に欲しがる食べ物にも画一性はないようである。(pp.59-60)