Washingtonという姓

Jesse Washington “WASHINGTON: 'Blackest' name in US” Shanghai Daily 4 March 2011


2000年の米国国勢調査によると、米国にはWashingtonという姓を持つ人が163,036人いる。これは米国人の姓としては138番目である。163,036人のWashingtonさんの約90%に当たる146,520人が黒人で、白人は8,813人(5%)しかいない。Washingtonは圧倒的に黒人の姓なのだ。黒人のWashingtonさんは寧ろWashingtonを名乗る白人その他の人種がいることに驚く。何故Washingtonといえば黒人なのかというのはよくわからない。というか、米国における黒人の姓の由来は不明なことが多い。黒人の姓=奴隷所有者の姓という俗説も(たしかにそういう事例はあるものの)一般化することはできない。Washingtonといえば米国初代大統領のジョージ・ワシントン。彼は奴隷所有者で、かなり酷く奴隷を虐待したこともあったが、特に晩年には〈建国の理念〉と奴隷制との矛盾に悩み、自らの奴隷を解放することを遺言し、実際彼の妻の死後に奴隷は解放された。米国大統領で奴隷所有者は12人に上るが、自らの奴隷を解放したのはワシントンだけである。このことと黒人がWashingtonを名乗ったことが関係あるのかどうかというのもはっきりしない。因みに、ワシントンと並ぶ米国独立革命の英雄といえば、Thomas Jeffersonだが、Jeffersonという姓も黒人に多く、Jeffersonという米国人のうち75%が黒人である。Lincoln*1の15%が黒人。たしかトーマス・ジェファーソンが奴隷に生ませた子どもの子孫が名乗り出るということが1990年代にあったと思う。なお、ジョージ・ワシントンには子どもがいなかったので、現在彼の子孫はいない。
さて、Washingtonが圧倒的に黒人の姓だということは、Washingtonという姓を持つ人は(その人種を問わず)常に差別に晒されるということである。2004年にシカゴ大学(Graduate School of Business)で行われた研究では、求職者が企業に電話をかけた場合、Washingtonという如何にも黒人を連想させる姓の人よりも例えばWalshという如何にも白人を連想させる姓の人の方が会社側からコールバックしてくる確率が圧倒的に高かった。また、Larry Washington氏(白人)は1962年にニュー・ジャージー州に引っ越してきたとき、家を探そうと、不動産屋に電話をかけても、Washingtonという姓のために、断られ続けていたという*2
たしかに、人名にはその人の社会的属性に関する様々な情報が入っており、私たちもそうした情報を読んで、それに基づいて、その人に振舞っている。だからこそ、人名は差別に結びつく*3
ところで、WashingtonとかBostonとか、英語圏の地名(人名)には-tonがつくのが多い。この-tonは古代英語のtunに由来し、tunは現代英語でいえばtown*4。Bostonというのはボス町ということ。
それから、上の記事を書いたJesse Washingtonという方が黒人なのか白人なのかはわからない。