足利義満と朝廷(メモ)

承前*1

かなり時間が空いてしまったけれど、


近藤成一「中世日本王権的分裂與統合」(徐洪興、小島毅、陶徳民、呉震(主編)『東亜的王権與政治思想――儒学文化研究的回顧與展望』*2復旦大学出版社、2009、pp.37-49)


からのメモ。
第4節「朝幕関係的転折」(pp.45-48)。
佐藤進一(「室町幕府論」)と富田正弘(「室町殿と天皇」『日本史研究』319、1989)の対立。佐藤によれば、足利義満において室町幕府は「朝廷権力」を「呑噬」した。1360年以後、京都における「治安、警察、刑事裁判、債権的強行徴収、領地裁判等権力」が検非違使庁から幕府の侍所に移管された。義満は足利義持に将軍職を譲って以降もその権能を保持し続け、自らの地位を将軍の上に置き、「公家、武家全体的統治者」として振舞った(p.45)。それに対して、富田正弘は義満が行ったのは「公武統一政権」の「実現」であったという。後円融上皇の死後、後小松の「親政」が実現したが、義満は「伝奏」に対する室町殿(足利将軍)の「命令権」を確立することによって、朝廷をコントロールした(pp.45-46)。佐藤は「王朝国家権力的実質部分」の幕府による「奪取」の後に、将軍の「公家化」、「與天皇一体化的過程」が起こったとする。佐藤によれば、足利義満による「朝廷権力」の「呑噬」は最初に「実質部分」、次いで「意識観念部分」という2段階を経ていることになる。それに対して、富田は「意識観念部分」の「掌握」に焦点を当てている(p.46)。佐藤の問題意識を引き継いだのが今谷明(『室町の王権』*3)。また、佐藤によれば、「簒奪皇位計劃」は義満の「個人野心」に還元されるべきものではなく、あくまでも「幕府権力呑噬朝廷権力」の一環として見なければいけない(ibid.)。

室町の王権―足利義満の王権簒奪計画 (中公新書)

室町の王権―足利義満の王権簒奪計画 (中公新書)

河内祥輔(「日本中世の朝廷・幕府体制」『歴史評論』500、1991)は義満の「奪取皇位計劃」の存在を否定する(p.47)。もし仮に「簒奪」が実現したとしても、「朝廷、幕府体制」には「根本性的変革」は発生しなかっただろうという(p.46)。近藤氏は河内の論を以下のように批判する;

河内因為否定義満奪取皇位計劃的存在、所以依然主張朝廷、幕府体制的框架延続至明治維新。但是、河内将問題簡単化了、他只注意是否存在奪取皇位的計劃、却遺漏了佐藤指出的幕府権力呑噬朝廷権力的一面。如果義満之時、天皇血統更換、那麼政治体制会被根本性地変革、対於河内的這一視点、没有異議。但是、即義満的奪取皇位的計劃不存在、也不能説在義満時期前後、政治体制没有発生変化。正如佐藤所論述的、如果幕府権力完成対朝廷権力的呑噬是義満執政期為分界的話、那麼就応該説在義満前後、政治体制発生了変化。(p.47)
また、河内の「朝廷、幕府体制」論そのものに対する評価;

河内所説的”朝廷、幕府体制”框架、在一定程度上是符合鎌倉時代的。但是、随着鎌倉幕府的滅亡、開始出現廃除”朝廷、幕府体制”的動向。不、鎌倉幕府的滅亡其本身就応該看作是廃除”朝廷、幕府体制”的動向中的事件。建武新政是朝廷主導廃除”朝廷、幕府体制”的嘗試。反過来、足利義満嘗試了幕府主導的廃除”朝廷、幕府体制”。既然嘗試成功、就応該其後的政治体制與其前的”朝廷、幕府体制”是不同的体制。義満以後、朝廷雖然仍旧存続、但是與往昔的朝廷相比、存立条件不同了。義満以後的朝廷、如果不寄生於幕府和其他権力、就無法存立。(ibid.)
河内は「観応擾乱」以後、「重建朝廷運動」は消え、「重建幕府運動」が取って代わったという。しかし、それは「朝廷、幕府体制框架基本維持下的変化」であるという(pp.47-48)。それに対して、

”感応擾乱”以後的政治史、未必就可以説成是以重建幕府運動為中心展開的。随着重建朝廷運動的衰退、重建幕府運動也衰退;重建幕府運動発揮作用、可以看到重建朝廷運動也同様発揮作用。毋寧説、是與重建朝廷運動和重建幕府運動都不同的理論、作為推動政治史的要因発揮作用、掲開了戦国時代的帷幕。(p.48)

*1:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100730/1280467690 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100802/1280773809 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100806/1281068970

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090919/1253330016

*3:今谷『室町時代政治史論』(2000)も参照されている。なお、小島毅足利義満 消された日本国王』も今谷的問題意識を引き継ぐものといえるか。

足利義満 消された日本国王 (光文社新書)

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