疑問幾つか

西谷弘監督の映画『容疑者Xの献身』を昨年末に観た。まあ〈2時間ドラマ〉としてはOKだろうけど、これが〈映画〉に値するかどうかは微妙だ。
以下若干の疑問。勿論ネタバレ。
高校の数学教師である石神哲哉(堤真一)が自らの名誉も自由も捨てるという究極の仕方で、自らのアパートの隣の部屋に住む花岡靖子(松雪泰子)を殺人罪から逃れさせるという物語なのだが、その「献身」の動機は、人生に絶望していたが隣りに花岡靖子とその娘が引っ越してきたことによって生きる希望を恢復したからだという。そして、彼が首を吊ろうとする場面も描かれる。縄を首にかけたちょうどその時、ドアのノックの音がして、花岡靖子が引越しの挨拶をする。その意味で、彼女は〈命の恩人〉だとはいえるだろう。しかし、石神の大学時代の友人である探偵役の湯川学(福山雅治)が語るところによれば、石神は数学と登山以外の世俗的なこと一切に関心を持たない男なのだ。関心(希望)がなければ絶望が起こるわけはない。石神を自殺にまで追い込んだ挫折って何なんだ? これが先ず第一の疑問。
湯川学の推理によれば、石神は〈アリバイ工作〉と見せかけて実は〈死体摩り替え〉を行ったということになる。そして、最後に警視庁のダイヴァーたちが隅田川に跳び込んでいる場面が映し出され、その推理が実証されそうな予感を喚起しつつ、映画は終わる。不思議に思ったのは、死体の指紋については言及されるのだが、血液型についての言及はない。死体を摩り替えたって、血液型が違うことがわかれば、摩り替えは成立しない。そんなのは法医学の基礎に属することだろう。もし湯川の推理が正しく、石神が〈死体摩り替え〉を行ったとして、石神は2つの死体の血液型が同じであることを如何にして知り得たのか。血液型の問題を石神がスルーしたということは、裏の裏の裏まで読む緻密な策略家という彼のキャラクター設定からすれば成立しない。
さらに、花岡靖子の前夫殺しであるが、離婚した夫がストーカー的に押しかけてきて、しかも娘に暴力を揮い、それを阻止するために、故意ではなく事故として結局は殺してしまったという事件である。そもそもこれは、彼女が警察に自首して裁判になっても、腕のいい弁護士がついていれば、正当防衛として無罪を勝ち取れる案件なのではないか。
うちに東野圭吾氏の原作小説はあるのだがまだ読んではいないので、原作との比較ということはできない。

容疑者Xの献身 (文春文庫)

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監督の西谷弘って知らない人だが、唐沢寿明版『白い巨塔*1の演出をしていた人なのか。
白い巨塔 DVD-BOX 第一部

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