文脈がわからず

創造者 (岩波文庫)

創造者 (岩波文庫)

先々週、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『創造者』を読了。


レオポルド・ルゴネスに捧げる
創造者
Dreamtigers――夢の虎
ある会話についての会話

覆われた鏡
Argumentum ornithologicum――鳥類学的推論
捕らえられた男
まねごと
デリア・エレーナ・サン・マルコ
死者たちの会話
陰謀
一つの問題
黄色い薔薇
証人
マルティンフィエロ
変化
セルバンテスドン・キホーテの寓話
天国篇、第三十一歌、一〇八行
王宮の寓話
Everything and Nothing――全と無
ラグナレク
地獄篇、第一歌、三十二行
ボルヘスとわたし


天恵の歌
砂時計
象棋

エルビラ・デ・アルベアル
スサーナ・ソカ


クロムウェル将軍麾下の一大尉の肖像に
ある老詩人に捧げる
別の虎
Blind Pew――盲目のピュー
A・Rを悼みて
ボルジェス一族
イース・デ・カモンイスに捧げる
一九二〇年代
一九六〇年作の頌歌
アリオストとアラビア人たち
アングロ・サクソン語の文法研究を始めるに際して
ルカス伝
アドロゲー
詩法
博物館
 学問の厳密さについて
 四行詩
 限界
 詩人その名声を告白する
 Le regret d'Heraclite――ヘーラクレイトスの後悔
 J・F・Kを悼みて


エピローグ


解説(鼓直

そもそもは1960年に刊行されたボルヘスの詩文集。前半には散文詩が収められ、「天恵の歌」以降は韻文。また、最後の「博物館」はボルヘスによって捏造されたテクストの〈引用〉?
この中には、詩作という行為について書かれたメタ・ポエトリーもあり、また彼自らの失明について書かれた作品もある。
このような作品は相対的に理解しやすいといえるだろう。しかし、この本を読んでいて、自分にはボルヘスの詩文を理解するための文脈を作ることができないなと思った。これは、昔『ブロディの報告書』のような小説を漫然と読んだときには感じなかったのだが。博覧強記のボルヘス古今東西の様々なソースに直接的・間接的に言及を行う。しかしそれは問題とはいえない。ここで「ボルヘスの詩文を理解するための文脈」といったのは、もっと狭い文脈についてなのだ。例えば、アルヘンティナの政治史。アルヘンティナでは19世紀に西班牙から独立して以降、〈中央派〉と〈連邦派〉の間で内戦が続いたが、それはボルヘスの詩文にも影を落としている。それから、アルヘンティナだけでなく、中南米の、さらにイベリア半島の西班牙本国を含む西班牙語圏における思想史・文学史の知識が私には欠けているのだ。最初の「レオポルド・ルゴネスに捧げる」のレオポルド・ルゴネス(アルヘンティナの詩人)、「ある会話についての会話」に出てくるマセドニオ・フェルナンデス(アルヘンティナの作家)、「ラグナレク」に出てくるペドロ・エンリケス・ウレーニャ(ドミニカの言語学者)、「天恵の歌」に出てくるポール・グルーザック(仏蘭西生まれのアルヘンティナの作家)、「エルビラ・デ・アルベアル」(アルヘンティナの女流作家)、「A・Rを悼みて」の「A・R」すなわちアルフォンソ・レイエス墨西哥の詩人にして外交官)等々。ホルヘ・ルイス・ボルヘス『創造者』に関して、http://d.hatena.ne.jp/ishikawa-kz/20101109/1289306818へリンクを張っておく。