- 作者: 大貫妙子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/06
- メディア: 単行本
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大貫妙子さんの『ライオンは寝ている』*1に「グアノ」の話が出ていたので、室田武「エントロピーと循環の経済学」(in 室田武、多辺田政弘、槌田敦編『循環の経済学 持続可能な社会の条件』学陽書房、1995、pp.1-48)から少しメモ;
南極海方面から南米大陸西岸を北上するペルー海流(フンボルト海流)のうちのペルー沿岸流は、アンデス山脈からの風の影響などで湧昇(upwelling)の著しい寒流である。一リットルの海水中に四万個体もの動植物プランクトンが認められることもあるというこの寒流は、無数に近いカタクチイワシなどの魚を育てる。そうした魚群をカモメ、ウ、ペンギン、ペリカンなどの鳥類が襲う。そして、鳥たちは、ペルー沿岸の岬や小島に糞尿を落とす。それが厚く堆積したものをグアノ(海鳥糞)といい、一九世紀ペルーは、これを西欧諸国、とりわけイギリスに大量輸出した。そこに豊富に含まれる窒素・リンのおかげで、イギリスの農民は生産力を高めた。これに対し、リービッヒは、遠方からのグアノ輸入よりカリウムも多く含んだ人糞尿の活用が大切であるとし、その脱臭法などをくわしく論じた。
なお、マルクスは、イギリスの地主は、資本家が労働者を搾取するのと同じように農地の地力ないしは土壌を搾取しているとみなす傾向があり、これに伴う地力損耗の埋め合わせとして農民がグアノを大量投入した、と考えた。カナダ・クィーンズ大学の歴史学者ダンカン(Colin Duncan)は、これに反論する。すなわち、イギリスの地主は地力維持には相当な注意を払っており、一九世紀なかばのイギリスの農地が疲弊していたという証拠はない、農民がグアノの施用を好んだのは、収量増大にそれが効果的であったからである、と。
この議論をもう少し進めてみると、問題は、グアノの大量利用で、イギリスの農業のあり方が、地域内の物質循環を重視するものからきわめて遠方の資源に依存する体質に変わった、ということではなかろうか。一八七〇年代から八〇年代になって、窒素とリンの含有量の多い良質のグアノは涸渇傾向を示し始めた。だが、それに代わるものとしてリン鉱石があった。イギリスは南太平洋のナウル島とオーシャン島およびインド洋のクリスマス島でリン鉱石を発見し、二〇世紀に入るとその大量輸入を始めた。そして、これを転機として今日の化学肥料依存型の農業が始まったのである。太平洋戦争中に日本がナウル島を占領したのも、リン鉱石を確保するためであった。(pp.22-23)
- 作者: 室田武,槌田敦,多辺田政弘
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 1995/04
- メディア: 単行本
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また、寒いシベリアのアムール川流域に何故大森林が可能なのか。産卵のために遡上する鮭を烏や熊が食べる。烏や熊が糞を陸地に落とす。なお、アムール川には鮭以外にも海水と淡水を往復する魚が約50種棲息する(pp.23-24)。