アーサー・ビナード『日々の非常口』

日々の非常口 (新潮文庫)

日々の非常口 (新潮文庫)

アーサー・ビナード『日々の非常口』(新潮文庫、2009)を読了する。
元々は『朝日新聞』に連載されていたというエッセイ集。2頁のエッセイが全部で全部で98篇。その多くは言語についての省察を含む。勿論著者の言語に対する感覚(とその感覚の言語化)は鋭いのだが、それは彼が言語的なマージナリティ、つまり英語と日本語(それから伊太利語と仏蘭西語)の間を生きているということにもよるだろう。また、声高ではない仕方で語られる著者の政治的コメントは、「アバウト」に言って*198%は共感できる。
ここでは、ひとつだけ抜き書きしておく;


ぼくが一九七〇年代に通ったミシガンの小学校の前を、もし日本人が放課後に歩いていたなら、みんなでなんと声をかけただろう? ひょっとしてだれかが"Aso!"と言い出し、アーソーの嵐にまで発展したかもしれない。当時、「ジャパニーズ」とくれば、なににでも"Aso!"を連発するのが決まりだった。
昭和天皇の口癖から始まった流行語が、進駐軍の間でも多いに流行り、アメリカへ持ち帰られた。そんな「あ、そう」の流布の仕方を、在日五年目にして初めて知り、ぼくは日米の時差に驚いた。
日本の戦後の一時の言葉が、米国では三十年間も健在だった。米国人の日本知識が、そこで止まっていた証拠でもあるのか……。(「ハローとアーソー」、p.56)
これについては、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081203/1228302788も参照のこと。
なお、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090910/1252613129 にてアーサー・ビナード氏の文章に言及している。

*1:「アバウト」という言葉の省察については、「大まかな好き嫌い」(pp.46-47)を見られたい。