http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100302/1267505317で、音楽におけるリハーサルに言及したのだが、後で読み返してみて、ちょっとルーティン的なパフォーマンスの確立に重点が置かれすぎていて、音楽における即興性やスタイルの革新といった側面を軽視していたなと思った。また、お能の囃子方では音が馴れ合ってしまうことを忌み、地謡も含めたリハーサル(能楽用語でいう打合せ)は原則として1回しか行わないという話を思い出したのだが、出典が思い出せない。手許にある能楽関係の本(土屋恵一郎『能』、梅若猶彦『能楽への招待』)を引っ繰り返しても、その話は出てこなかった。たしかに安定したパフォーマンスやノリが確立したとしても、〈馴れ合い〉であるならば、倦怠期の夫婦みたいに、緊張感が喪失し、またスタイルの革新も抑圧されてしまうだろう。『社交する人』の山崎正和氏によれば、リズムを含む身体感覚が自然的なものから、それが意識化され、文化的なスタイルへと飛躍する契機は不調、自然(自明的)なバランスの崩れなのだ。共同の時間を構成するための長時間のリハーサルというのは意識化の契機を鞣してしまうという可能性も持っていることになる。山崎氏曰く、
身体の感覚は多くの場合、運動が反復され型が形成される過程で、ときたま一回ずつの運動がそれに乗りはずれたときに発生する。それはまず何かがうまく行かないという不満として生じ、次に運動を妨げている場所の感覚として同定される。何かがうまく行かないと感じるのはまだ運動感覚であるが、この感覚はただちに運動を分割して問題の部分だけを感じようとする。歩いていて躓いた人は歩みを停め、躓いた動作を繰り返して運動感覚の焦点を絞ろうとする。いわば運動によって運動を感じなおして、型の崩れた場所を点検しようとする。するとその点検のなかで運動を支えている身体の部分、手や足や、道を見る目や呼吸する胸がおぼろげな姿を浮かびあがらせるのである。(pp.262-263)

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