「最終の小説」?

『朝日』の記事;


「時代の精神」への切実な思い 大江健三郎氏、新作を語る

2009年11月3日11時48分


作家の大江健三郎氏(74)が先ごろ台北で講演し、執筆中の最新長編小説『水死』の内容を明らかにした。「晩年の仕事の中でも最終の小説になるかも知れない」と大江氏。戦前に亡くなった自分の父親をモデルとする主人公が登場する私小説的な色彩の濃い作品で、戦前の国家主義と戦後の民主主義という二つの「時代の精神」がキーワードとなる。「自分の人生の前半部分である戦前の『時代の精神』について小説の方式で考えるものだ」と語った。

 大江氏は台湾の中央研究院と中国の社会科学院の共同シンポジウムに招かれた。訪中歴は多いが台湾訪問は初めて。07年の『臈(らふ)たしアナベル・リイ総毛立ちつ身まかりつ』に続く小説となる『水死』の草稿は完成し、現在最終的な書き直し作業中で、12月に講談社から刊行される。

 大江氏は講演で「仕事中の作家の打ち明け話」として『水死』の概要を語った。

 長江古義人(ちょうこう・こぎと)という作家が物語の語り手の「私」。長江の父親は太平洋戦争末期に不利な戦況を憂える軍の青年将校と深い関係を築き、テロリスト的行動を決意して洪水の川に一人で船で乗り出したが、最後は水死してしまう。

 長江は父親の事件の小説化の構想を抱いたが最後は執筆を放棄する。しかしその過程で「天皇陛下万歳」と叫んで死んだ父親の国家主義的な思想が自分自身の一部であることを自覚し、現在の自分が戦前の「時代の精神」の再来に抵抗できているか、心の内部を揺さぶられていないかを思考する展開だという。

 1945年、大江氏は10歳で敗戦を迎えた。実の父親は思想的にも、また死亡の状況においても『水死』に描かれる「私」の父親に重なり、「私」も「作家(自分)と同一視できる人物」だという。舞台も大江氏の故郷である四国の山村という設定だ。

 大江氏は『水死』執筆の狙いについて「私がどのように自分の(戦後の)『時代の精神』を裏切らず生き死にしたいとねがっているか、その回答を読み取っていただけるのではないか。それが現在の私が抱く最も切実な思いだ」と話した。(台北=野嶋剛)
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200911030141.html

台湾の『聯合晩報』の記事はhttp://udn.com/NEWS/READING/REA8/5178692.shtml
ところで、「古義人」って少しベタすぎないか。