デフレはバブル? など


デフレが続く限り、景気は悪化する一方であり、デフレに「良いデフレ」などないと思うのだが、なぜデフレが進行している時にインフレの心配をする人が多いのか、デフレは金持ちにとってこそ有利なのに、なぜ貧乏人が金持ちを援助する逆再分配政策を支持するのか、それも私にはさっぱりわからない。民主党政権は、何度も書くように世論に影響されやすい政権である。世論がデフレの進行を望み、政府支出を減らし、財政赤字を減らす政策を支持するから、民主党政権も安心してそちらに進んでしまう。民主党支持のブログから、もっと藤井財務相の政策を批判し、積極財政を求める声が聞かれてしかるべきではないと思うのだが、なぜそうならないのか、私には不思議でならない。
http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1012.html
昨年の日銀総裁人事を巡っても、民主党や左翼のスタンスには?がいっぱいだった*1。それ以前から、経済学を議論する掲示板などでは、何故左翼の経済学が結果として新自由主義者と似た〈シバキ主義〉になってしまうのかということが議論されていたけれど、その何故については結局よくわからなかった。まさか、大恐慌こそ革命のチャンス! という〈大恐慌待望論〉があるわけでもあるまい。歴史的な事実として、20世紀の大恐慌は幾つかの国でファシストに政権を与えたけれど、社会主義革命を起こさせはしなかったのだ。
さて、デフレとインフレに関して興味深い視点がある。2002年の発言だが、飯尾潤氏との対談*2にて、深尾光洋氏曰く、

深尾:
(前略)私は現在の日本の状況はマイナスのバブルだと認識しています。

このバブルというのはどういう意味かというと、不動産や株式などの実物資産が売られて、現金、預金、国債に資金がシフトするタイプのバブルです。なぜこれがバブルかといいますと、国債、預金、現金を持つ理由は、政府の信用があるとみんなが思っているからですが、政府の信用はどんどん悪化しています。したがって、サスティナブル(持続可能)でないため、これはバブルです。

政府の信用がなくなってきているにもかかわらず、安心しきってたくさん買っているということです。政府の負債はどんどん拡大しているけれども、全部国内で吸収されているというのは、まさにバブルでしょう。

飯尾:
では、バブルの崩壊ということはあり得るわけですか。

深尾:
それは、その逆に行くということで、日本政府の保証している金融政策からそれ以外のもの、外貨、不動産といったものにシフトするということです。

飯尾:
それは通貨の信任が一挙に失われるということですね。

深尾:
はい。ですから、現状のデフレを放置することは、日本政府の信用の失墜を放置するということです。

飯尾:
信任が失われるということは、いずれは逆のほうに振れると、またハイパーインフレと言われるのはそういう事態なわけですか。

深尾:
相当高率のインフレになる可能性があると思っています。

飯尾:
バブルが崩壊した瞬間にそれが起こり得るということですか。

深尾:
多分、瞬間には起こらないと思います。なぜなら、物価はそんなに簡単には上がりません。資産価格や為替は動きますが、一般物価や賃金はそんなに早くは動きません。しかし2年ぐらいをかければ、数十%のインフレになる可能性はあります。そして、それは止められないでしょう。その理由は、財政の資金繰りが火の車になってしまうためです。負債GDP比率が非常に高くなって、かつ短期の負債が多くなった状態でインフレになると、それを止めるためには金利物価上昇率以上に上げる必要があります。それをすると、利払い負担が一気にはね上がります。

私もシミュレーションしましたが、仮に物価がプラスになって金利を5%まで上げざるを得なくなったとすると、その段階で政府のグロス債務GDP比率が200%を超えているという状態を想定すると、すぐには金利負担は上がりませんが、2年ぐらいの間にGDP比で10%ぐらいの利払い負担の増加になる可能性があります。これは郵貯の赤字を含むものです。郵貯の方は運用は平均で4年ぐらいでやっていますが、貯金はすぐに預けかえが可能ですから、金利が3〜4%上がれば大挙して預けかえられます。そうしますと、その赤字を全部カウントすれば、利払い負担の増加分、つまり今から比べた増加分が、現在のGDPに直せば50兆円近い利払い増加になる可能性があります。

国税を全部入れても、利払いの増加に対応できないという状況になると、サラ金状態ということになります。そして、それは格付の大幅な下落と金利のさらなる上昇を招きます。実際ブラジルあたりですと、政府債務の実質金利が10%近いものになっています。こうなると、政府は、プライマリーバランスをそれこそ5%くらいの黒字にしないとやっていけなくなります。

デフレはバブルであるということ。また、デフレとハイパーインフレーションは表裏一体であり、(インフレを心配する人の心情とは裏腹に)デフレを放置することこそがインフレへの道だということになる。これは岩井克人が『貨幣論』で理論的極限として論じている貨幣の崩壊としてのハイパーインフレーションに近いのではないか。
貨幣論 (ちくま学芸文庫)

貨幣論 (ちくま学芸文庫)

さて、深尾氏は「デフレの解消」に対する処方箋として、(普通の意味における)「積極財政」よりも、「バブルのターゲット」である政府保障のある金融資産への課税の強化を推奨する。また、その意外な効果;

また貸し渋り対策にもなります。銀行が日銀当座預金に積んでいれば当然課税されます。貸し出しを行えば課税されません。政府が保障したキャッシュフローである金融資産に課税し、政府が保障しない金融資産には課税しないということですから、私が飯尾先生からお金を借りても、それは課税されないわけです。そのかわり、私がお金を借りて現金を持っていれば課税されますので、早く返そうとするわけです。だから返せる人は早く返そうと思いますが、貸している人は返してほしくないわけです。ですから企業間信用が拡大します。みんな後払いでいいよと言うでしょう。車だって、課税日の後での支払いでいいですと。嫌です、現金で払いますと。押しつけ合いになります。つまり、現金から物にシフトするから景気がよくなるわけです。望むところです。