「社会主義」が大流行のようだが

社会主義」が大流行らしい。谷垣禎一安倍晋三*1城内実*2*3。また、鳩山邦夫*4は兄弟喧嘩のネタに「社会主義」を使っているらしい*5。蘇聯風邪? 蘇聯風邪にはカチューシャ。
さて、「社会主義」といえば、田中良紹「日本の「保守」は社会主義」という文章*6がけっこう評判になっており、少し遅いかもしれないが、読んでみた。前半部では「政権交代」について語られている。「社会主義」が登場するのは中盤以降。


野党に転落した自民党は政権奪還のための議論を始めた。大いに議論して確かな再生を図って欲しいと思う。期待もしていた。ところが議論を聞いているうちに首を傾げたくなった。鳩山政権の政策を「社会主義的だ」と批判し、自民党再生のために「保守の旗」を立てると言うのである。自民党を「保守政党」、民主党を「社会主義的政党」と規定して国民の支持を得ようと考えているようだが、それは大きな「勘違い」である。

日本の自民党民主党との間に英国の保守党と労働党や米国の共和党民主党のような違いを作れるかと言えば難しいと私は思う。なぜなら日本の「保守」は戦前から一貫して「社会主義的経済政策」を推進し、戦後はまるで官僚と一体化して、ソ連や中国もうらやむ社会主義的成果を作り上げてきたからである。

これまでの日本に社会主義的政党はあっても、英国や米国のような保守政党は存在しなかった。自民党は「保守」を自称してきたが、世界から見れば一党独裁社会主義政権である。それが官僚の作成した計画経済で高度成長を成し遂げた。その結果、世界でも例を見ない貧富の差の小さい一億総中流国家を作った。その成功体験を持つ自民党が、そもそもの力の源泉を投げ捨てて、英国や米国のような保守政党に脱皮できるのだろうか。

中国共産党が将来の民主化も射程に入れて、日本の自民党の研究に力を入れているという話を聞いたことがある。複数政党制における一党独裁維持の可能性。日本の政権交代は中国の民主化を遅らせることになるのか。

言い換えればかつての日本に自民党と対立する野党はなかった。メディアは旧社会党を野党と呼んだが、それは国民にこの国を民主主義と思わせる目くらましの虚構である。旧社会党は選挙に過半数の候補者を決して擁立せず、自民党単独政権を絶対にやめさせないところに存在理由があった。それが93年の自民党分裂まで続いた日本の政治構造である。
たしかに、昔地方選挙では(中央における)与野党相乗りで元自治官僚かなんかが立候補する一方で共産党が独自候補を立てるというのは通例だったが、それって日本が複数政党制で一党独裁じゃないということを示すためのヤラセなんじゃないかと思っていたということはあったけれど。ただ、旧社会党について弁護しておくと、社会党にとっては政権交代よりも憲法改悪を阻止することの方が重要だったということはあると思う。つまり、社会党過半数を取るよりも自民党に3分の2以上の議席を取らせないことの方が重要だった。
また、

大体自民党は「弱者に優しい」事を「社会主義」だと「勘違い」しているようだが、社会主義とは「官僚が力を持って計画経済を行う体制」である。「さらば財務省」という本を書いた元官僚が「まえがき」に「霞ヶ関社会主義だ」と驚いたように書いていたが、私はそれも知らずに官僚になった人間がいることに驚いた。官僚が社会主義的であるのは当然である。官僚の養成のために作られた東京大学がかつてマルクス・レーニン主義の牙城であったのも何の不思議もない。だから旧大蔵省が作った税制は金持ちを作らない税制なのである。
たしかに、かつての、或いは現存の自称「社会主義」国に限定すればそうかも知れないが、狭くマルクス主義内部に限定しても、ローザ・ルクセンブルクやアントニオ・グラムシの思想とかを勘案すれば、「社会主義」を「官僚が力を持って計画経済を行う体制」に還元することはできないだろう*7桜井哲夫先生(『社会主義の終焉』)だったら、それは「社会主義」というよりも「サン=シモン主義」だろうというかも知れない。
社会主義の終焉―マルクス主義と現代 (講談社学術文庫)

社会主義の終焉―マルクス主義と現代 (講談社学術文庫)

ところで、世界の主要政党で「保守」を名乗っているのは英国の保守党だけなのでは?

*1:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060120/1137781980 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060219/1140331809 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060223/1140686238 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060226/1140923595 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060828/1156761714 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060904/1157371716 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060906/1157517667 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060912/1158067383 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060913/1158169095 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060915/1158340807 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060922/1158953499 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20061008/1160336855 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070224/1172330232 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070709/1183953278 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070906/1189082768 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070911/1189534747 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070915/1189874234 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070917/1189957657 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070918/1190119331 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070922/1190391050 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081120/1227194306 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081203/1228302788

*2:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081201/1228105248 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090327/1238126481 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090729/1248869190 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090804/1249405632 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090805/1249492266 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090809/1249835813 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090813/1250162720 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090910/1252567925 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090912/1252732340 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090914/1252865497 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090915/1252981143

*3:http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20091028/1256741626 http://d.hatena.ne.jp/kojitaken/20091029/1256822024 http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-1010.html

*4:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081207/1228581254 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090713/1247449418

*5:http://d.hatena.ne.jp/nessko/20091028/p2

*6:http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2009/10/post_191.html

*7:また、逆の方から言えば、「社会主義」国では官僚が自らの本領である筈の技術的合理性を、イデオロギーに阻まれて、充分に発揮できないということは屡々である。