船曳建夫「この人・この3冊 ルソー」『毎日新聞』2009年5月17日
少し抜書き;
「未来の理想に燃えながら足元に暗黒を渦巻かせ、遠くの弱きものを助けようとして身近な者に過酷さを強いるといった、ここ200年余りの人類の過ちは、ルソーという人間の体質に重なり合う、近代そのものの思慮浅き楽観から来ている」。
また、
それまでも人は、神に対し「私は……」と、つぶやくことはあった。しかし、彼は、「私、ジャン=ジャックは、私、ルソーは」と、社会に向かって、自分の名前を連呼し、それゆえ制裁を受ける。ところが、それ以来、(略)私たちは、危険に味付けされた「告白」に酔い続け、いまでは、安全な「ブログ」というかたちとなって、消費されている。
『新エロイーズ』、この、読む人を愛欲の喜びに耽溺させる手紙体・恋愛小説は、エンタテイメントであると同時に、「私」と「人類」を架橋しようとする、恐るべき革命の書だ。ルソーは友情と愛情からなる三角関係、−−あえて「3P」と呼ぼうか−−に新しい人類社会を夢想している。当時の為政者はそこに気づかなかったが、彼の作品中、いまでも、真に「発禁」の栄光に値するのは、この書である。
ジャン=ジャック・ルソーについては、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070522/1179863073 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070713/1184301731 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080918/1221675301 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081205/1228406152も。また、ルソーと記憶というテーマについて、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050805で言及した、石川美子『旅のエクリチュール』をマークしておく。
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