Integration theory/conflict theory(復習)

政治・社会論集―重要論文選

政治・社会論集―重要論文選

Ralf Dahrendorf「社会紛争の理論に向けて」(加藤秀治郎、金井和子訳in加藤秀治郎編『政治・社会論集 重要論文選』晃洋書房、1998、pp.1-33)から少しメモ。先ず前置き;


(前略)社会紛争とくに革命は、マルクス、コントからジンメル、ソレルに至るドイツ、フランスの学者にとって、社会研究の中心テーマの一つであった。社会紛争が中心テーマであったという事情は、たとえばイギリスのウェッブ夫妻アメリカのサムナーのような、初期のイギリス、アメリカの社会学者にもあてはまる(もっとも、革命の問題はどういうわけか、英米の著作では軽視されているのが特徴である)。しかしながら、タルコット・パーソンズが一九三七年に、アルフレッド・マーシャルエミール・デュルケーム、ウィルフレッド・パレート、マックス・ウェーバー社会学理論を集大成した時には、社会紛争の分析はもはや彼の念頭になかった。彼は相互に関連したカテゴリーを道具として、いわゆる「社会システム」の統合という問題を説明しようと企てた。「社会を統合するものは何か」が新しい問いとなり、もはや「社会を動かすものは何か」は問われなくなった。パーソンズのこの問題設定が(アメリカの社会学に限らず)現代の社会学に及ぼした影響は、評価しすぎることがないほど大きかった。したがって、多くの人に、ここ十年の社会紛争研究の復活は、伝統的研究の継続というより、新しいテーマの発見と見なされる可能性がある。(後略)(pp.1-2)
なお、このテクストの初出は1958年。
「統合理論」の要素;

一 あらゆる社会は、比較的永続性のある、安定した要素の構造である。
二 あらゆる社会はよく統合された諸要素の構造である。
三 社会のあらゆる要素は社会が機能するのに貢献している。
四 あらゆる社会は社会の構成員の合意に基礎をおいている。(p.9)
「このような社会モデルを基礎とする理論は、社会紛争や社会変動の現象については、説明はおろか、記述のためにさえ、役に立たない」(p.10)。
「全く正反対の社会モデル」(ibid.)=「紛争理論」の要素;

一 あらゆる社会はいつも変動の下にあり、社会変動はいたるところに遍在している。
二 あらゆる社会はいつも社会紛争を経験しており、社会紛争はいたるところに遍在している。
三 社会のあらゆる要素は社会の変動に貢献している。
四 あらゆる社会は、社会の一部構成員による他の構成員に対する強制に基礎をおいている。(ibid.)

二つのモデルのうち、どちらがより正しいモデルかを経験的研究によって決定するのは不可能である。前提条件は仮説ではないからである。さらに、ある意味では二つのモデルはいずれも、有効で実りある分析をもたらす、と言えるように思われる。安定と変動、統合と紛争、機能と「逆機能」、合意と強制は、あらゆる社会が等しく有する、二つの有効な側面であるように思われる。二つは弁証法的に対立しているものだが、このような概念を組み合わせてはじめて、社会の過程を余すところなく記述できるのである。(pp.10-11)

社会理論の最終目標は社会変動の説明にある。社会変動の過程はどこから始まるのか、その出発点を確定する分析用具は統合理論によって与えられる。紛争理論の任務は、社会変動の過程をひきおこす諸力がどこにあり、社会変動がどこに生じているのか、それを発見することにある。紛争理論は、社会紛争の構造的起源を理解できるようにするモデルを開発しなければならない。そのモデルの開発は、紛争を社会集団間の闘争であると理解して初めて可能になる。(p.13)
最後に引用した部分を読んで、ダーレンドルフってけっこう弱気なんじゃないかとも思った。ここは彼が「統合理論」の理論構成上の優位(社会の「統合」「安定」を前提とした上での「変動」「紛争」)を認めているように読める。上に引いた「紛争理論」の「前提条件」をベタになぞっていけば、「変動」「紛争」の諸力の一時的な均衡が「統合」「安定」であると言ってしまうことできるだろう。
なお、より基礎論的な準位で物言えば、「紛争」(対立)の条件、「紛争」(対立)を可能にするものとしての「合意」がある。