烏冬的起源

『朝日』の記事;


「うどんの起源は中国でなく日本」伝承料理研究家が新説
2009年1月25日11時32分

 うどんのルーツは中国ではなく、日本だった?――うどんは、日本で独自にできた食べ物とする新説を、伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さん(71)が30年がかりの現地調査でまとめた。これまで、うどんは漢字表記の変化などから、中国のワンタンが原型というのが有力な説だった。

 ワンタンの中国表記である「コントン」のコンは、食へんに「昆」と書き、トンは饂飩(うどん)の飩。だが、コンを食へんに「軍」と書くことがあり、ウントン、ウンドンとも読む。これが読みの同じ温飩になり、饂飩に変わった――。この説は、昭和初期の中国研究者・故青木正児(まさる)京都大教授が「饂飩の歴史」という論文で発表し、広まった。

 だが、奥村さんはこの説に疑問を持ち、中国の二十数都市でめん料理を現地調査した。日本の文献にあるめん料理の製法とも比べた。

 その結果、中国には、めんを湯につけて温め、付け汁につけて食べる、うどん本来の食べ方がなかったという。「饂」という漢字も中国にはない。また、平安時代の日本の文献には「コントン」という食べ物があったが、肉のあんを小麦の皮で包んだもので、うどんとは似ていなかった。うどんを示すと考えられる表記が日本の文献に初めて登場するのは南北朝時代で、カタカナで「ウトム」とあった。

 これらの結果から、奥村さんは、うどんは中国から伝わった「切り麦」から日本独自に進化したと推測。切り麦はいまの冷や麦で、細いので湯につけるとのびやすい。うどんは、温めて食べる専用の太いめんとして生み出された可能性が高いと結論付けた。

 日本うどん学会長の佃昌道高松大教授によると、うどんの起源は中国説が有力だが、いつ、どんな形で入ってきたのか、諸説あるという。讃岐うどんは、空海が中国から持ち帰ったという俗説もある。
中国のめんの歴史に詳しい石毛直道国立民族学博物館名誉教授は「これまでの研究ではないほど、関連する文献をよく調べ、中国各地でも実地調査をしている。妥当な説だと思う」としている。(鍛治信太郎)
http://www.asahi.com/national/update/0124/OSK200901240094.html

これは「妥当な説」だろうとは思う。餛飩(雲呑)というのはどう考えても、noodleというよりは包子や餃子の親戚だよね。現在の中国語では「うどん」は烏冬麺と書くのが一般的だと思う。
餛飩の起源については、http://www.chinadimsum.com/news/shownews.aspx?id=522&bid=5。これによると、餛飩は既に後漢の揚雄の『方言』に記載があるという*1 。「餛飩」は「餅」という大きなカテゴリーに包摂されるものであり、古代においては「餛飩」と「水餃」の区別はなかった。また、現在でも湖北では「餛飩」を「水餃」ということがあるという。ここでは、「餛飩」と「うどん」との関係への言及はない。日本語の「ワンタン」は広東語起源。雲呑と書く。これをマンダリンで発音すればyuntun、日本語読みすればウンドン。たしかに「うどん」に似ているが。但し、この記事では日本へは中国北方から伝来したとしている。


ところで、広東や廣西には伊麺というのがあって、最初に中国に行ったとき、あちこちの食べ物屋に「伊面*2」という文字があって、一瞬スパゲッティか!と思ってしまったということがあった。そのときは、中国語でItaliaは伊ではなく意だということを知らなかったのだ。スパゲッティは意大利麺、また(香港では)意粉。伊麺は後にMr. Yi’s egg noodleと英訳されているのを知った。伊とは姓だったのね。

See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20090101/1230785113

*1:揚雄『方言』については、大島正二『漢字と中国人』(See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20050810 ))に言及がある。

漢字と中国人―文化史をよみとく (岩波新書)

漢字と中国人―文化史をよみとく (岩波新書)

*2:簡体字では麺は面と表記。