リンギスを再録

汝の敵を愛せ:Dangerous Emotions

汝の敵を愛せ:Dangerous Emotions

http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081120/1227201998の余白に、http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070316/1174048999で引用したアルフォンソ・リンギス『汝の敵を愛せ』の一節を貼り付けておくのも無意味なことではあるまい;


きみはリーノーの病院で生まれた、きみはリオ郊外の名もないスラム街のある汚い小屋のなかで生まれた。きみの存在は、いかにかけがいのないものだろうか! 偶然にある女とある男が出会い――地球の二十五億の男のなかから、偶然にその男と出会い、思いもかけず男は女を気に入り女は男を気に入り、二人は服を脱いで交接し、そして、ヴァギナのなかへと繰り返し射出される精子のなかから、ひとつが偶然にこの卵子と出会い、そのなかに吸収されたのだ。百万の偶然の出会いが作り上げる人生行路の曲がり角を、どこか少しでも違ったふうに曲がっていれば、生まれたのはきみではなく誰か別の人物だっただろう。

宇宙の原子の数は、十の七十六乗だと言われている。しかし、人間のDNA分子の可能な組み合わせの数は十の二十四億乗である。きみが存在する確率は、十の二十四億乗分の一なのだ。生まれたのがきみだったというのは、偶然という以前に、まったくありそうにもないことなのだ。(pp.166-167)