『蘇る金狼』を観る

蘇える金狼 [DVD]

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土曜日深夜(というか日曜日早朝)、NHKのBSで村川透監督の『蘇る金狼』を観る。先週はやはり松田優作主演の『探偵物語』だったので*1、11月のNHK BSは松田優作特集で決めているのか。
この映画、そもそもの公開は1979年。しかし、観た記憶はない。また、大藪春彦の原作小説も読んではいない。また、1998年にも真木蔵人の主演でリメイクされているようだが、そちらの方も観ていない。
物語は3つに分けられるのではないかと思う。先ずは現金輸送車から1億円を強奪した朝倉哲也(松田優作)がその1億円をヘロインに換える話。前半はこの話が中心となる。ここでの見所は地方政治家でもある磯川(南原宏治)率いる麻薬密売組織がブツの引き渡し場所として指定した無人の海堡での長回しの銃撃戦シーンだろう。因みに、岩と海というトポスは最後の方でも反復される。
そして、後半は朝倉が勤める「東和油脂」の幹部たちの横領・背任を巡る若手総会屋・桜井(千葉真一)による脅迫、さらにそれに巻き込まれたと見せかけての朝倉による会社乗っ取りが中心になる。ここでは、メインの筋とは外れるけれど、会社幹部たちに依頼されて桜井をつけ狙う探偵の石井(岸田森)の怪演は言及しておくべきだろう。彼の登場によって、この映画はジャンルとしてはそもそもたんなる暴力物、犯罪物じゃなくて、ホラーに属するんじゃないかという気もしてくる*2。また、上述した麻薬取り引きの話と会社乗っ取りの話がどう繋がるんだと思っていたのだが、この2つは最後の方で合流して、悲劇的な結末を準備する。
3つ目の物語は朝倉と(横領・背任の一味でもある)朝倉の直接の上司・小泉(成田三樹夫)の二号である永井京子(風吹ジュン)の物語。
この映画を観る場合、この世に〈正義〉なるものが存在することを想定してはならない。朝倉は粛々と人を殺し、恐喝をし、会社を乗っ取っていく。他の連中でも〈正義〉によって行為する奴はいない。では、この映画の世界にあるのは暴力と謀略と貪欲だけかというと、多分そうではない。〈正義〉みたいな野暮なものはなくても〈愛〉はあるんじゃないか。永井京子は朝倉によってドラッグ漬けにされ、小泉についての情報を朝倉に垂れ流す。朝倉は社長の娘を手に入れるのだが、永井京子は自分は朝倉の道具として使い捨てられたと思って、朝倉と心中しようとするが、朝倉はからくも生き残る。朝倉にとって永井京子はたんなる道具だったのか。朝倉は例のヘロインを小泉(彼も永井京子を通じてドラッグ漬けになっていた)に高く売りつけ、その金で永井京子と日本を脱出しようとしていた。しかし、それは挫折し、この世はもう朝倉にとって住むべき場所ではなくなってしまう。つまり、狂人として世界に対して距離を取らざるをえなくなる。また、この映画で〈愛〉を感じさせるカップルはもう1組いる。桜井とその女である。この人たちは、会社幹部が雇った神戸の殺し屋たち*3にカー・チェイスの末に虐殺されてしまう。
ところで、何故朝倉がこのように精密な殺人機械みたいになったのかということについての言及が少しくらいあってもしかるべきだと思った。あまりすると白けてしまうが。他の連中は普通に悪なのだが、朝倉の場合は善悪を超えている、或いはその手前なのだ。それにしても、この映画、悪役が豪華で、例えば会社の幹部たちは、成田三樹夫のほかには、小池朝雄佐藤慶である。ほかにも悪のスターが沢山出ている。現在ではこれだけ豪華な悪役を揃えることはできないんじゃないか。映像における悪事が衰退し、せこくなるのも無理はない。さて、昼間のうだつの上がらない朝倉は雰囲気が何だか木村拓哉に似ている。木村拓哉は総理大臣を演じるとかに現を抜かしていないで、真面目に悪の精進をすべきだろう。彼が演じた日本国首相も朝倉という名字じゃなかったっけ。

CHANGE DVD-BOX

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監督は村川透、主演は松田優作、撮影は仙元誠三、これは所謂「遊戯」三部作−−『最も危険な遊戯』、『殺人遊戯』、『処刑遊戯』と同じだ。こちらの方もまた観てみたいなと思う。
最も危険な遊戯 [DVD]

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殺人遊戯 [DVD]

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処刑遊戯 [DVD]

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*1:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20081116/1226865478

*2:結末について言えば、少なくともサイコ・ホラーであるとは言えるんじゃないか。

*3:神戸って、殺し屋の名産地なのか。