『探偵物語』を観る

探偵物語 [DVD]

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根岸吉太郎監督の『探偵物語』(1983)をNHKのBSで観る。
ストーリーに関しては、http://blogs.dion.ne.jp/kazshin2007/archives/7265345.htmlで、1つのエピソードだけ時間的順序が違っているところはあるものの、ネタばれに近いかたちで再現されているので、興味のある方は参照されたい。
ランダムに幾つかメモ。
冒頭で、夜門限に遅れた女子大学生の新井直美(薬師丸ひろ子)が彼女とメイドの長谷沼(岸田今日子)しか住んでいない自宅豪邸の門を乗り越え、壁を攀じ登って家の中に入る。この動作は映画の中で薬師丸ひろ子が取る印象的な動作の原型であって、それは或る種の変形をされながら、何度か反復される。
この映画は(探偵物というのはすべてそうかも知れないが)、追う/追われるについての物語であるという側面がある。最初、探偵である辻山秀一(松田優作)は誰かわからない人物から新井直美の尾行を依頼される。つまり、最初は辻山が直美を追う。しかし、数日後に今度は直美は好奇心から逆に仕事が終わった辻山を尾行して、辻山の前妻で場末のナイト・クラブのジャズ歌手で、そのクラブのオーナーであるやくざの国崎(鹿内孝)の情婦である幸子(秋川リサ)と会っているところを目撃する。ここで、追う/追われるが逆転するわけだ。ところが、それから国崎はホテルで幸子とセックスの後にシャワー・ルームで何物かに殺されてしまう。これを契機に、辻山と直美はともにやくざから追われ、ともに国崎殺しの真犯人を追うようになる。
また、この映画を観ていて興味深いと思ったのは、この映画の世界が幾つものペアの集積から構成されていることである。国崎殺しの犯人というのもこのペアの錯綜と無関係ではない*1。ペアを数え上げてみると、


新井直美−辻山秀一
新井直美−永井裕(サークルの先輩、恋愛未満)
永井裕−進藤正子(同級生、恋愛関係、妊娠。幸子がいるクラブでバニー・ガールのバイト)
進藤正子−新井直美(嫉妬)
辻山秀一−幸子
幸子−国崎(国崎は幸子に売春を強要)
国崎−三千代(中村晃子)(夫婦)
三千代−岡野(財津一郎)(不倫関係)
長谷沼−新井直美の父(かつての愛人関係?)


等々ということになる。
大学生役の薬師丸ひろ子は当時実際に大学在学中だった筈なのだが、当時はその虚ろな視線のあり方が魅力のひとつだったということがわかる。また、彼女の上擦った饒舌は松田優作の寡黙と対照をなしているが、この喋り方は松田優作を際立たせるためだったのか。その後20年以上経って、『ALWAYS三丁目の夕日*2に出ていた薬師丸ひろ子は視線も虚ろではなく、普通の女性であった。勿論、松田優作はもうこの世にはいない。

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さて、新井直美は性や恋愛については晩生なキャラクターとして設定されている。彼女は他人のセックスの様子を聴いてしまうし(三千代と岡野、辻山と幸子)、ラブホにも入る。しかし、自らがするということはない。永井裕とはもう少しのところで、辻山に阻止されてしまう。この映画は直美の〈長い少女時代〉の終わりを描くものだといえるのかも知れない。ただし、その終わりは恋愛によってもたらされるのではない。米国に留学して、当地に住んでいる父親と再会することによって。なので、ここでは少女/大人という対立が日本/米国という対立と重ねられていることになる。
或る世代の人間にとって、この映画に出てくる1980年代前半の大学生のファッションは懐かしさと恥ずかしさを喚起するものであろう。因みに、音楽は加藤和彦

*1:因みに、私はかなり早い段階で誰が犯人なのかということは気付いてしまった。

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070219/1171860573