「ついうっかり」

少し前の『山形新聞』の記事;


大江健三郎さん、ついうっかり 日取り勘違いし講演に姿見せず
2008年10月05日 09:30

 ノーベル賞作家も、ついうっかり−。劇場、図書館などから成る山形市の「シベールアリーナ&遅筆堂文庫山形館」で4日予定していた作家大江健三郎さんの講演会「本を読むことに始まる」に本人が姿を見せず、古い友人でこの日は講師の紹介役だった作家井上ひさしさん(川西町出身)が、詰め掛けた約600人の聴衆を前に急きょ代役を務める珍事があった。大江さんが講演の日取りを1日勘違いし、5日だと思っていたのが原因。大江さんの講演会は、後日あらためて開く予定だ。

 大江さんはこの日午後、山形新幹線でJRかみのやま温泉駅に到着するはずだった。ところが、井上さんらが迎えに出た同駅には降り立たず、乗り過ごした可能性を考えて探した山形駅にもいなかった。大江さんが講演日を取り違え、都内の自宅にいたことが分かったのは、開始時刻の午後3時の直前。主催者側は、4日の新幹線チケットを事前に送り、大江さんと2日に最終打ち合わせをしていたという。

 代わりに演壇に立った井上さんは「大江さんには急いで手紙を書いて、あらためて講演をお願いする。本当に申し訳ありません」。大江さんが現在、書き下ろし小説に取り掛かっていることに触れ「日付を忘れるくらい執筆に集中していたのでは。とても誠実で正直な人。本人は苦しんでいると思う」と述べた。

 同じ学年という大江さんの作品については「東大生時代に書いた『芽むしり仔撃ち』を読んで『参った』と思った。あのころは『大江ショック』で小説をあきらめる同世代が多かった。個人的な悩みから希望をつくり出し、自分を乗り越えて人類を励ますのが大江作品の本質」と分析。「大江さんが書いていないジャンルは−と考えた時残っていたのがドタバタ」とユーモアを交えて話し、満員の聴衆の拍手を浴びていた。

 大江さんの次の講演日が決まった時点で、この日の聴衆に連絡。希望者にはチケットの払い戻しも行う。千葉県から訪れたという女性は「井上さんと大江さんの話を聞けるなんて、1回で2度おいしい感じ。次回も来ます」と話していた。

 大江さんは東大在学中に作家デビュー。「個人的な体験」「万延元年のフットボール」「同時代ゲーム」「取り替え子(チェンジリング)」など多くの作品があり、執筆活動は50年を超える。1958(昭和33)年に23歳で芥川賞、94年ノーベル文学賞を受けた。
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