「汁」と「おつゆ」


二十年より前の話、住んでいたところの最寄り駅が下北沢とか世田谷代田だった頃、下北沢の南口の角店(たぶん今みずほ銀行のCDがあるあたり)に牛丼屋があって、そこに入って牛丼をお願いしたときに「おつゆもください」と言ったら「うちはおつゆは置いてないね」と店主が言いました。

 お味噌汁の意味で「おつゆ」と言ったのでしたが、それは方言であったということにその時に気づいたのです。ただその店主、「味噌仕立ては汁、醤油仕立てはつゆって言うんだ」的なことを得々と話し始めたので、まあ豆知識をもらったのはいいのですが少ししつこく感じて、それ以来一度もその店には入らなかったはずです。言い方もあろうとは思うのですが、自分も若かった所為か少し狭量だったなあと今なら。
http://d.hatena.ne.jp/uumin3/20080924#p2

例えば一汁一菜というように、英語のsoupに対応するもの一般を「汁」(しる)という。上でいわれている「おつゆ」だが、これは澄まし汁(お澄まし)*1であって、あくまでも「汁」の下位分類ということになる。しかし、「牛丼屋」の「店主」がいった「汁」と「おつゆ」の区別というのは、私にとっては自明なことで、子どもの頃から(大方は千葉や東京の人間であった)私の親や親戚の大人たちはみなそのように使っていた。だから、東京周辺の方言では多分そうなのだろう。ただ、書いた人の記憶違いという可能性もあるのだが、「おつゆ」と「つゆ」は違う。「おつゆ」といえば所謂お吸い物だが、「つゆ」といえば蕎麦つゆである。私の感覚では、前者の場合は必ず「お」を付け、後者の場合は「お」を付けないものだと思っている。それよりも、「味噌汁」を「おつゆ」というのはどの地方の言い方なのかという方が興味がある。
さて、個人的な偏見かも知れないが、汁/つゆというのは、


ねばねば/さらさら


という対立があるのではないか。「汁」にはどうも粘着的なイメージがある。味噌汁もお吸い物より粘着感がある。或いは、果汁。また(下ネタで恐縮だが)本気汁とかガマン汁。それに対して、「つゆ」の方は夜露や朝露。
中国語では、味噌汁もお吸い物でも湯ということになる。但し、中国語には別の、湯/羹という対立があり、どろっとしたスープ、例えばポタージュなどは羹と呼ばれることになる。
さて、私は下北沢生まれだが*2、「下北」という言い方にはとても違和感がある。別に青森県を差別するつもりはないけれど。というか、東京の地名についてのスラング、例えばジュクとかノガミとかダバシとかブクロとかが廃れてきているのに、何故今「下北」なのかという疑問。

*1:標準的な言い方だと、お吸い物か。

*2:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060908/1157680200