夕張(佐々木譲)

佐々木譲「ふたつの町の物語」『図書』709, pp.2-5


夕張市に生まれ、3歳のときに札幌に転出したという作家の佐々木譲氏が夕張について書いている;


夕張で驚くのは、かつて人口十二万人だったという最盛期の面影が何もないことだ。いっとき栄えた都市であれば、たとえば小樽でも函館でも、必ずその最盛期にみずからの繁栄を誇る街並みが造られており、それが現在の観光資源ともなっている。しかし夕張は、かつて一度たりとも栄えたことがなかったのではないかと思えるほどの、みすぼらしい町である。つまり夕張では、その最盛期ですら、商工業者も炭坑景気を一過性と見て、ろくな社会資本整備をしてこなかったのだ。自分の商店やオフィスをまともな建築にしようという意識すらなかったのだと想像できる。
では、炭坑という近代産業の遺産はどうだろうかと探しても、やはり何もない。遊園地の中に、立坑のタワーがひとつ残っている程度なのだ。聞くと、財政破綻の元凶とも言える中田鉄治市長(市長を六期つとめた)が、幹線道から見える炭坑施設はすべて破壊するよう指示したせいだと言う。
結果として、夕張はレトロな趣のある街並みもなく、近代産業遺産もない。ただキッチュな遊園地の施設と、哀愁のある集落が残っているだけだ。(pp.2-3)
私は夕張へ行ったことがないので、この記述の妥当性については判断できない。