承前*1
増井経夫『中国的自由人の系譜』からの抜書き;
治世の枷がはずれると、人間の能力は四方八方に伸びるもので、南北朝のころは中国でもっとも数学の発達した時期であった。当時の世界でいちばん正確な円周率の数値一一三分の三五五を算出した祖沖之は、また指南車や木牛流馬を復活し、千里船や水碓磨などの奇器を発明したり、改良したりした。今日『晋書』が正史でもっとも数字のたくさん出てくる作品であるのも時代の然らしめたものであろう。かと思うと、志怪小説といった怪奇で不合理な物語が流行し、傑作の数々が残され、雲崗や龍門の秀れた仏教芸術が作られ、絢爛たる文学が作られた。合理と不合理、陽気と陰気とが背中合わせになって同時に進行し、火花を散らした時代で、どこが乱世なのかと目を疑わせる活気が横溢しているのである。(p.134)
- 作者: 増井経夫
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