「思想のように大胆に」

夢みる人びと―七つのゴシック物語 1 (ディネーセン・コレクション 2)

夢みる人びと―七つのゴシック物語 1 (ディネーセン・コレクション 2)

アイザック・ディネーセンの「エルシノーアの一夜」から;


二人が若いころ、エルシノーアの社交界では、美しいデ・コニンク姉妹の出席なしではどんな催しも成功したためしがなかった。二人はこの町の華やぎの中心だった。二人が舞踏会の会場に到着すると、実業家たちの地味でふるびた家の天井はいくらか高くなり、ぶどうの蔓のからむイオニア式柱にかこまれた、古代さながらの舞いのつどいの耀よいに包まれるかと思われた。姉妹のどちらかが舞踏の皮きりをつとめる。小鳥のようにかろやかに、思想のように大胆に踊る乙女は、その集り全体を、生きるよろこびをつかさどり、苦労やねたみ心を消し去る神々への捧げものに変える。二人は木かげの夜鶯さながらに二重唱を歌ったかと思うと、今度はなんの苦もなく、しかも悪気のない調子で、エルシノーアの上流階級の面々の声色をつかっては、トランプのテーブルをかこむ父の友人たち、町のお偉がたの腹の皮をよじらせるのだった。またたく間にジェスチュア遊びや罰金ゲームを考え出したし、音楽のレッスンや散歩に出かけて帰ってくると、外で見聞きしてきたことをおもしろおかしくしゃべりたて、また自分たちがでっちあげたすっとんきょうな話を、思いつくままにいくらでも話すのだった。(pp.11-12)
「思想のように大胆に踊る」とはどういうことなのか。「イオニア式柱」という言葉もあり、今引用した次のパラグラフには「アテネのタイモン」(p.12)という言葉もあり、この辺りにはギリシア的なイメージが漂っている。これと関係あるのか。英語の原文をチェックしてみるしかないか。
ところで、このデンマークのエルシノーアはハムレットの故郷でもある。「デ・コニンク姉妹」の弟「モルテン」についての描写−−「まことにモルテンは、エルシノーアにかつて生をうけたもう一人の高貴な若者、王子ハムレットにも比すべき存在、あらゆる人びとの注目の的、流行の鑑、男の手本であった」(p.14)。


さて、『思想』のヤン・パトチカ特集*1だが、神保町の岩波ブックセンターでゲット。その帰り、某カフェで昔の知り合いにすごく声が似ている人を見かけた。声はそっくりだったが、顔はそれほど似ていなかったので、やはり人違いだろうと思って、声をかけることはしなかった。それから、地元に帰って、パブロンの顆粒を買う。妻はパブロンは他の風邪薬よりも美味しいといっている。美味しい/不味いで風邪薬を区別する人というのも珍しいと思う。

思想 2007年 12月号 [雑誌]

思想 2007年 12月号 [雑誌]