股民の民度の問題か

先ずは『毎日』の記事なり;


不払い残業:是正指導1679社18万人 好景気でも増加

 本来支払うべき残業代を払わず、労働基準監督署から是正指導を受けた企業数が、06年度に1679社に上り、01年度の調査開始以降、最多となったことが厚生労働省のまとめで分かった。是正額は227億1485万円に上り、約18万人の労働者に改めて支払われた。好調な景気の下でも是正指導を受ける企業数は減らず、不払い残業が横行している企業風土が改めて浮き彫りになった。

 100万円以上の不払い残業代を支払った事案をまとめた。件数は前年度比155件増で最多となり、総額は前年度比で約6億円減だった。

 1企業で最も不払い額が多かったのは12億3100万円(金融・広告業)、次いで8億7287万円(同)、4億6960万円(製造業)となった。同省は企業名を公表していない。業種別では製造業(430社)が最多で、商業(421社)、接客・娯楽業(145社)だった。

 また06年中に賃金不払いの労働基準法違反で送検された事例は39件あった。悪質なケースを除いては、是正指導がされるケースが多いため、送検事例は不払いを繰り返したケースがほとんど。同省では「いまだに労働時間管理にルーズな企業体質がはびこっている」と話している。

 労組の労働相談担当などによると、残業代を支払わない悪質な手口は次のようなものがある。

 ある企業はパソコンで労働時間を管理するとしながら、一定の残業時間になると勤務表を書き換えるソフトを導入していたという。また、別の企業は、タイムカード打刻後、会社から社宅の一室に場所を移し残業を命じていた。

 さらに労働時間把握が難しいとして、強引にみなし労働制度などを適用して残業代を支払わない例も増えているとしている。

 国は現在、仕事と家庭の両立をうたうワークライフバランスを推進しているが、労組関係者は「国が音頭を取っても、こんな実態ではむなしく響くだけ。一方で厚労省は残業代をごまかした企業の名前を公表していない。対応が甘すぎる」と批判している。【東海林智】

毎日新聞 2007年10月10日 8時20分
http://mainichi.jp/select/biz/news/20071010k0000m020181000c.html

これについて、厚生労働省が「企業名を公表していない」ことについて、

この件に関して、普段「市場原理主義」や「市場万能論」をベースに言説を展開している人に聞きたいんだけど、(故意か過失かにかかわらず)明示されていたルールを侵して本来支払われるべき経費(給与)を支払わなかった企業の名前が開示されないのは「市場の透明性」を阻害することにはならないのかな?

コンプライアンス」という視点と併せて、「従業員をどのように扱っているか」という視点もその企業価値を判断する上で非常に重要な評価軸になると思うんだけど。

もし「過失」だったとしたら企業にとって根幹となる「管理部門」の脆弱性を示すことになるだろうし、もし「故意」だったとしたら「コンプライアンス」という点で大きなマイナスなのはもちろん、社員のモチベーション低下による商品/サービスの品質悪化やコアとなる人材の流出による将来の成長鈍化、また訴訟というリスクなど様々な不安要素を抱えていることになるんじゃないだろうか。

企業規模にもよるけど、数十万、数百万ならいざ知らず、数億ってレベルはさすがに故意/過失問わず企業価値を大きく下げる要素になると思う。(数年間分を遡って支払ってることもあるのだろうけど)さすがに12億なんて金額はおかしくないか?ちょっとした粉飾レベルだと思うんだけどなぁ。
http://d.hatena.ne.jp/inumash/20071011/p1

という意見あり。
この論は、株式市場における投資家が〈良心〉を持って、倫理的に振る舞うということを前提にしていると思われる。しかし、少なくとも現状においては、こういうことが公表されたら、却って「企業価値」が大きく上がってしまう可能性もある。五十嵐さんが「言わずと知れた「居食屋・○○」の運営会社」であるW*1について書いている;

そこの会社のYahoo!Finance掲示板を見ると、ちょっと気になる投稿が連続してあったのです。
まとめると、「この会社のバイトへのオペレーションは酷い、サービス残業も常態化・システム化されている、こんな会社の株を買うというのはどうなんですか?」というようなものです
(略)
Wグループにそういうことがあるのかは、謎です。極端に言えば、株主相手の匿名掲示板へのこんな書き込みなんて、ライバルグループの社員が、企業イメージを落とそうとして書き込んでいるのかもしれない。

しかし、その真偽の程はともかくとして、呆れたのは、その一連の投稿への「一般投資家」の反応でした。
そのほとんどが、「その話を聞いて安心しました。いい会社ですね、これからも投資しつづけます。あなたたちをそれだけ悪条件で雇用しているのなら、人件費が圧縮できているわけで、今後も収益率アップが見込めますからね」というようなものだった(w
http://yas-igarashi.cocolog-nifty.com/hibi/2005/03/iii.html

五十嵐さんが「その「民度の低さ」(笑)に呆れると同時に、こういう投資に対するマインドが変わっていけば、あるいは、違うマインドを持ったプレーヤーが株式市場に参入していけば、こうした労働条件改善へのかなり重要な梃子となりうるのではないか、という可能性を感じました」と書いているように、上に引用したinumashさんの論がplausibleであるかどうかというのは、投資家の「民度」に依存するということになる。さらに言えば、左翼こそ、株式投資に参入すべしということになる。
1970年代には、公害企業や軍需企業に対する株主運動というのがあったと思うが、それは株主総会という場で自らの主張をアジる権利を獲得することを主眼としており、市場原理によって市場原理を矯めるという発想はなかったように思う。また、バブル時代に某左翼党派が活動資金稼ぎのために株式投資をしているという噂を聞いたことがある。また、やはりバブル時代には、多くの労働組合で、貯まりに貯まった闘争資金を不動産とかリゾート開発に投資して、結局大損をこいたという例があった。

*1:社長が教育改革に熱心なことでも有名なので?