イトーヨーカドーでChimay*1が買えるようになったのは何時頃なのか。因みに、Chimayは「黒」(スタウト)ではありません*2。1980年代、Chimayは日本橋の高島屋にしか売っていなかった。だから、わざわざ地下鉄に乗って、高島屋まで買いに行った。それが、今では、近所のヨーカドーに行けば、Chimayだけでなく、Anchor Steamでさえ買うことができる*3。こうなると、ChimayやAnchor Steamを呑むということによって、俺は一般大衆とは違ったtasteを持っているという階層的優越感を維持することはできなくなる。イトーヨーカドーで買えるChimayなんて、言ってしまえば、パラディグマティックな選択肢において、スーパードライと同等じゃないか。昔は、Chimayというか白耳義の麦酒にはクレプスキュールが換喩的に結びついていた。
ちょっと違った側面を考えてみる。少なくとも、1980年代くらいまでは、麦酒に関する「自大」主義が蔓延っていたと思う。知識人・非知識人を問わず、或いは政治的な左右を問わず、またアサヒのスーパードライは是か非かというのはあったろうが、誰もが日本の麦酒がいちばん美味いということを疑っていなかった。日本における麦酒ナショナリズムは強力であり、アンホイザー・ブッシュやハイネケンといったグローバルな資本の侵略を今に至るまで阻んでいる。しかし、Chimayがイトーヨーカドーで買えるというのは、そうした麦酒における「自大」主義が或る程度払拭されたということなのだろうか。その一方で進行したのは、麦酒/発泡酒という新たな分化だろうか。味覚の国際化と階層分化が関係ありそうだというだけで、勿論結論なんかない。
さて、http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20071008/p1で村上春樹の『やがて哀しき外国語』が引かれているのだが、村上春樹のプリンストン滞在の主要な目的の1つが『ねじまき鳥クロニクル』のための「ノモンハン事件」関連文献の閲読だったということは現在明らかになっているが*4、『やがて哀しき外国語』にはそのことは記されていただろうか。読んだのがかなり前なので、思い出せない。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/02/14
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (115件) を見る
ところで、http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20071007/p3経由で知った『産経』の記事*5における時野谷浩という方のコメントは、読みながらくすくす。因みに、この時野谷さんのラディカルなメディア還元主義というのが『産経』の社風に合致するものなのかどうかというのは議論されてしかるべきだろう。
*2:Cf. http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20071008/p1
*3:http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070524/1180035472
*4:Cf. eg. 林少華「“暴力、就是打開日本的鑰匙”――関於《奇鳥行状録》」(『書城』2007年9月号、pp.65-68)。これはJay Robinsの書に依拠するところ多し。
*5:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071007-00000925-san-ent