あんとに庵様が基督教(天主教)について語る言葉には重いものがある。
曰く、
ルネッサンス美術にどっぷりとはまり、中世へと遡っていく過程で、「美」を通じて知ったキリスト教世界は上記のごとき閉塞的な世界ではなかった。そこには人間性を、肉なるものを肯定する世界があり、喜ぶ人々がいた。視覚的言語において知る神の世界は限りなく広がる自由があった。そこでは闇も光も入り交じって存在し、分断されているようにも見えぬ。暗黒の中世は禁欲的ではない。寧ろ享楽的であり、また聖フランシスコが被造物に見たように、自然は自然のまま礼賛され、被造物の歓びはそのままルネッサンスの自然主義的な光学世界へと引き継がれていく。神の三位一体は範形的に被造物にあると、ボナヴェントゥラは考えた。私が触れていたキリスト教は近代以降の霊性だったからなのか。それも光のみの世界。しかし闇と光とが分断されたバロックの世界は光のみでは実は成立しえない。バタイユのごとき闇があって、光がある。その辺りは近代の神秘主義のあの「十字架の聖ヨハネ」によって述懐されてはいる。近代のオカルティズム作家ユイスマンスのあの一連の小説は、十字架の聖ヨハネの暗夜からはじまる道行きを辿っている。光によって作り出された闇を進むがごとき霊性。光のみを語る世界は薄っぺらであり、闇があって、その中から光を見るような、そういうバランスによってはじめて、光を知る事が可能になるのではないか?
http://d.hatena.ne.jp/antonian/20070813/1187012381
やはり日本で基督教のイメージというと、明治時代にやって来た米国の宣教師、そして彼らに影響を受けた内村鑑三などのイメージが強いのかなと思う。19世紀後半の米国のミッショナリーについては、南北戦争*1後の米国のバブリーな金ぴか時代に〈神の下での地上の王国〉だった筈の米国の腐敗堕落を感じ取り、新天地を求めて、海外布教に乗り出したということは記しておくべきだろう。
そういえばヨーロッパの教会にはエロスがある。視覚的な享楽がある。あれを背徳的であり、また堕落であると指摘する宗教改革以降の霊性(プロテスタントやカトリックの一部の人々)は或る意味正しいし、かなり鋭いかもしれぬ。しかし上述の通り考えるならば神はそれを恩寵とする。イタリアの祝祭的な霊性に触れた時、神と出会うことが出来たといおう。やはりラテンの霊性なんだな。自分的に。
さて、以前、
と書いた。
(略)「脱聖化」というのは、たんなる「格下げ」ではなく、意味というものの消去に関わっている。近代の端緒が宗教改革にあるとすれば、近代それ自身に関わる問題である。宗教改革のテロスは神の絶対的超越性を称揚するために、現世の意味を徹底的に剥奪し、たんなるmaterialに還元してしまうということにあったといえる。つまり、目指されていたのは意味それ自体の消去なのであり、そこにあるのは、世界への配慮の欠如というか、寧ろその積極的な禁止であろう。ここで配慮が内向きに転換して、私たちは〈自分という獄屋〉に幽閉されてしまうことになるのだが、問題は、仮令そうであっても、意味というのは勝手にぽこぽこと構成されてしまうということである。そうであれば、意味つぶしも際限なくなる。ところで、所謂「ネタ化」「脱聖化」に倫理的ないかがわしさを感じてしまうのは、その世界への配慮の欠如のせいなのかも知れない。貧しくなるのは、「脱聖化」に晒された対象であるよりも、世界或いは宇宙そのものなのである。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060519/1148016388
あんとに庵様いうところの「近代以降の霊性」の場合、「ラテンの霊性」*2と較べて、「世界への配慮」が徹底的に後退して、〈神への配慮〉に集中し、さらにはそれが蒸発して、〈自己への配慮〉が残されたということになるか*3。〈自己への配慮〉云々ということに関しては、(宣伝になって恐縮だが)拙稿「孤独と近代」を取り敢えずマークしておく。
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バタイユの『眼球譚』って、河出から現在は出ているんですね。私が読んだのは同じ生田耕作訳の講談社文庫版。「マダム・エドワルダ」を併録する。河出文庫版の方は「初稿」という文字が入っているが、講談社文庫版とは翻訳の底本が違うのか。
*1:英語ではCivil Warなので、本来は米国内乱と訳すべきだろうが。
*2:これを安易に〈ゲルマン〉と対立させないこと。
*3:See also http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060122/1137952844 http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20070323/1174628115