Precariously yours

勿論precariat*1という言葉は知っている。さて、http://d.hatena.ne.jp/femmelets/20070614#1181833079経由で、intello precaireという「数年前から」「流行語として定着して」*2いる仏蘭西語を知る。そもそもは、Anne RambachとMarine Rambachという二人組がLes intellos precairesという本において造った言葉であるらしい。また、Mona Chollet “Le paradis sur terre des intellos precaires”という記事は阿部幸という方によって、「フランス「下流インテリ」たちの現実」として訳されている*3。それはさて措き、intello precaireについて、にむらじゅんこさんの纏めを引用してみる;


● アンテロプレケールの特徴
25〜30代後半ぐらいのベビーブーマーの子たち。両親は68年学生運動時のインテリゲンチャー。教養があり、資格・免状もある(だから、ニートとはちがう)。マスコミ、プレス、出版局、研究所などで働いている。文学・芸術・コミュニケーション、インターネットなどの分野における彼らの貢献は大きい。アンテロプレケールたちは、サラリーをもらって拘束されるよりも、自由でいたいとおもっている。企業にとっては、「報酬」ではなく「やりがい」で満足感を与えられるので好都合


● アンテロプレケールは社会のUFOである
アンテロプレケールは、どの階級やカテゴリーにもあてはまらない。実は、あらゆる分野で有能なのだが、職業的に、経済的に、愛情面においても、性的にも不安的な状態にいる。結婚しておらず、パックスも結んでおらず、子供もいない。父でも母でも夫でも妻でもなく、会社員でも経営者でもないマージナルな存在がアンテロプレケールである。


● アンテロプレケールは、文化のハイブリッドである

アンテロプレケールたちは、都市部の小さなアパルトマンに住んでいて、本を沢山読み、シネマに行き、ジャズからクラシック〜ワールド音楽と音楽にも造形が深く、レストランで食事をするのも好き。彼らの金銭感覚のバランスは、あまりクラシックな基準からは異なる。
http://junquonimura.jugem.jp/?eid=20

ところで、(私にとって)precariousという言葉から連想する人物はピーター・バーガーである。彼の初期における作品The Precarious Visionは、理論的にも倫理的にも私が最も影響を受けた書物であるといえるかも知れないのだ。
The Precarious Vision: A Sociologist Looks at Social Fictions and Christian Faith

The Precarious Vision: A Sociologist Looks at Social Fictions and Christian Faith

先ず師匠であるシュッツの現象学的社会学に依拠して、宗教を含む社会的なリアリティがprecariousであることを示し、さらに宗教(religion)の廃墟から信仰(faith)を救い出そうとする。この本を一言でしかも乱暴に要約するとこうなるだろう。ここでのバーガーにとって、神による救済への信仰は決して悲劇的なものではなく、喜劇的、さらにはスラップスティック(不条理)なものでさえある。ここで、バーガーは基督教神学上は新正統主義に依拠しており、(サルトルというよりはカミュ流の)仏蘭西実存主義の影響下にある。バーガーはこの後、現在に至るまで、(左翼陣営にも心酔者を生み出しつつ)米国保守主義の代表的な思想家として活躍するのだが、彼の右への転回は神学的には自由主義神学への転向と、また実存主義への距離化と関係があるのかも知れない。