玉葱を剥く

 James Meek “Look back in anger” http://books.guardian.co.uk/print/0,,330070156-99819,00.html


http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_75ee.htmlにて知る。
独逸の作家ギュンター・グラスは自伝の出版以来、また昨年8月に新聞Frankfurter Allgemeine Zeitungのインタヴューに答えて以来、その少年時代に関して、突然〈渦中の人〉となり、バッシングの対象となった*1。この度、その自伝の英訳本が出版されるに当たって、グラスはデンマークで『ガーディアン』のインタヴューに答えている。グラスは例えば独逸のメディアの手口について「怒りを込めて振り返る」。私は「自伝」そのものを読んでいないので、「自伝」それ自体に言及することは差し控えなければならないが、興味深く思ったのは、グラスが「記憶」の基本的な特性について語っているところ;


Grass has been famous for almost half a century, ever since 1959, when his satirical-autobiographical masterpiece The Tin Drum, about a little Nazi-era boy who decides not to grow any bigger, was published. He has drawn directly on his life for his fiction ever since. I wondered why a writer whose work is so openly autobiographical should have chosen, now, to write a memoir. Peeling the Onion is curious in form, recording not only what happened but what might have happened. I suggested to Grass that his constant challenging of the accuracy of his memory, his manner of questioning on almost every page whether an event happened or not, made Peeling the Onion an un-memoir.

"Everybody knows how fallible memory can sometimes be," he said. "You remember certain fragments precisely, but as soon as you try to join the fragments together, for a story, there is a certain - not falsification, but a shifting."

また、『玉葱を剥く』というタイトルも興味深い。「玉葱」を剥けば泪が出る。また、「玉葱」を剥いたその帰結は〈無〉であろう。
グラスが少年時代のナチス体験をずっと隠蔽して、今頃になって「告白」したということで、スキャンダル化したわけだが、実はグラスは少年時代の体験について今迄ずっと語っていなかったわけではなかった。Karl Wagenbachという人が、1960年代にグラスがその問題について議論している記録を発見している。しかし、(グラス曰く)”At that time nobody was even interested in the fact and it wasn't a big deal.” また、この記事では、この騒動に対するグラスの「文学的回答」だという「愚かな8月」という詩(の最初のスタンザ?)のJames Meek氏自身による英訳が紹介されている;

Late, they say, too late. / Delayed for decades. / I nodded: Yes, it took time, / Till I found words / For the over-used word 'shame'. / Along with everything which had made me known, / Flaws are attached to me / Clearly enough for people with flawless, pointing fingers.
さらに、(これは「うに」さんも言及しているのだが)、”Grass said he had been overwhelmed with supportive letters from Germans, thanking him for provoking the ageing generation which remembers the war to talk about it with their grandchildren.”という文も引用しておく。
戦争の記憶ということで、韓国において「朝鮮戦争」の記憶が風化しつつあるという『毎日新聞』の記事;

韓国:朝鮮戦争が風化

 【ソウル中島哲夫】朝鮮戦争(1950〜53年)の開戦57周年にあたる25日、韓国紙・朝鮮日報は20代の国民の半数以上が開戦の年さえ知らないと報じた。韓国ギャラップ社と共同で1005人を対象にした電話世論調査の結果、開戦年を正答できない人が20代で53.2%、30代37.1%、40代24.5%だった。

 「月刊中央」7月号もソウルの小学生3600人の調査結果として、朝鮮戦争李朝時代の戦争とか「日本と戦った」と誤解している児童が3割以上だと報じた。豊臣秀吉朝鮮出兵と混同しているらしい。

 25日、ソウルでは国連軍として参戦した各国の元将兵も参加して記念式典が行われたが、風化は確実に進んでいる。

 一方、朝鮮日報は同じ調査で、北朝鮮と米国への認識も質問した。盧武鉉ノ・ムヒョン)大統領が当選した02年の調査では「米国は嫌い、北朝鮮は好き」という回答が多かったが今回は逆転。また「北朝鮮が戦争を起こす危険性」を懸念する回答が00年の調査開始以来、初めて5割を超えた。昨年10月の北朝鮮の核実験などが影響したようだ。

毎日新聞 2007年6月26日 1時32分
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070626k0000m030169000c.html