『天地創造神話の謎』

天地創造神話の謎 (古代学ミニエンサイクロペディア (5))

天地創造神話の謎 (古代学ミニエンサイクロペディア (5))

吉田敦彦『天地創造神話の謎』(大和書房、1985)を最近読了した。
その構成は大まかに、


1 天地はいかに造られたか
2 太陽と月の意味
3 東西神話の類似は何を物語るか
4 人類はいかに誕生したか
5 神話は、なぜ必要か
6 霊魂は、なぜ生まれたのか
7 女性は、なぜ罪と関係あるのか
8 最初の性交は、なぜ行われたのか
9 火と死との出会い
という感じである。9章に分かれるというよりも、相対的に独立した99の読み物が寄せ集められているといった方がいいかもしれない。本書は、そもそも産報という出版社から出された『天地創造99の謎』という本の改訂版であるらしい。タイトルは『天地創造神話の謎』だが、狭い意味で(例えば『創世記』のような)「天地創造神話」に関説しているのは、「天地はいかに造られたか」を構成する15の話だけである。それよりも、旧約聖書、希臘神話、『古事記』、『日本書紀』は勿論のこと、世界各地の事例が散りばめられた本書を通読して印象づけられるのは、「神話」というのはとにかく(「天地」に限らず)起源を語るものだということだろう。本書の後半に進むにつれて、諸々の起源の中でも、人間という存在の起源、「人間がどうして人間になったのか」*1(p.202)にフォーカスされていく。そして、最後はインドネシアのセラム島の「ヴェマーレ族」(及び同系統のニューギニアの「キワイ族」)の「ハイヌヴェレ神話」で締め括られる(p.212ff.)。少女「ハイヌヴェレ」の殺害によって、「世界に人間の主食物になる栽培植物が発生し、農業が行なわれるように」なり(p.219)、人間が「文化と死の運命を持つ人間になった」(p.212)というもの*2。この「ハイヌヴェレ神話」の倫理学的インプリケーションは戦慄的である。
吉田敦彦氏といえば、スキュタイ神話の日本神話への影響という論だが*3、本書でも勿論それは散りばめられている。
また、本書で、グノーシス主義と中国の「魂魄説」との類似を説いた小林太市郎という美学者の存在を知る。『王維』、『芸術の理解のために』という著作あり(p.150ff.)。

*1:これはヘシオドスが語るプロメテウスとパンドラの神話についていわれたもの。

*2:日本神話におけるスサノオによるオオゲツヒメ殺害もこれと同じモティーフを持つ。Cf. http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20060927/1159366397

*3:Cf. 『日本神話の源流』

日本神話の源流 (講談社現代新書 420)

日本神話の源流 (講談社現代新書 420)